特別寄稿
国保財政とジェネリック医薬品
公益社団法人 国民健康保険中央会
野島 康一
厚生労働省主催の「後発医薬品使用促進ロードマップ検証検討事業」検討委員会(委員長:武藤正樹国際医療福祉大学大学院教授)に委員として参加させていただいており、この3年間、委員の皆様方の活発なご議論の中で、現在のジェネリック医薬品の開発、生産、流通、使用の状況を勉強させていただきました。
私はかつて厚生省(現厚生労働省)に長く勤務したことがあり、かなり昔ですが薬務局経済課(現医政局経済課)というセクションで医薬品の流通や医薬品産業の振興に係る業務を担当していたことがあります。当時を思い起こすとジェネリック医薬品に関してはまだ、そのような呼び名はなく、残念ながら好ましからざる俗称で呼ばれていたことなどを思い出します。その当時(30年以上前)とは隔世の感のあるジェネリック医薬品の品質、生産体制・供給体制の向上といった状況が冒頭の委員会での議論の中で示され、認識を新たにさせられた次第です。もっとも本ニュースをお読みの方々からは、今頃何を言っているのか、とお叱りを受けると思いますが・・・。
私事に属する話はともかく、現在私が所属している国民健康保険中央会は各都道府県にある国民健康保険団体連合会、これは国保や後期高齢者医療、介護保険などの保険者のための事業を行う公法上の組織ですが、その事業を支援するための組織です。詳細な業務内容は控えますが、市町村等の国保保険者などが事業を行う上でのインフラの整備や厚労省との各種窓口や制度改正提案などを行っています。
さて、この国民健康保険制度、国民皆保険制度の要であり、その最後の拠り所としての機能を果たすために昭和36年に現行制度がスタートしてから既に半世紀以上が経過しました。当初は農林水産業、自営業者等が主体の制度でしたが、これまでの社会経済情勢の変化などにより大きく様変わりしています。世帯主の職業別で最も多いのは無職であり、(非正規)雇用者がそれに続きます。また平均年齢は50歳超、所得階層でみると年収がゼロから百万円未満が5割超であり、一方ひとり当たりの医療費は年齢構成が高いことなどにより協会けんぽの2倍といったといった保険制度としては極めて脆弱な状況に至っています。
もともと被用者保険と違い事業主拠出が期待できないこともあり、多くの公費投入を行うことが制度設計上の前提でしたが、近年ではそれにとどまらず、赤字補填のための市町村一般会計からの繰入れが年間三千億円にも上る状況が続いています。
このような状況を打開すべく、平成27年に国保法等の大改正が行われ、今年の4月から新たな仕組みがスタートしました。最も大きな変更点は保険者が変わったことです。保険制度にとって保険者は最も基本的な要素ですが、これまでの市町村に加え(代わりではありません)、都道府県も保険者となり、主として財政責任は新たに加わった都道府県が担うことになりました。
本ニュースをお読みの方で国保の被保険者の方はあまり多くないかもしれませんが、この夏新たに加入者の手元に届いた被保険者証をご覧になると、○○県国民健康保険被保険者証などとなっていることがおわかりかと思います。従来は、保険者名△△市などとなっていたはずです。(県単位の制度になったので今後は県内の住所移転であれば国保の資格は喪失せず継続します)
財政責任を都道府県が担うといっても、これまでの赤字体質のままの市町村国保をそのまま引き受けるはずはありません。今回の大改正の二つ目の柱は、公費による支援の大幅拡充で、新たに毎年三千億円以上の公費が追加投入されることになっています。
原資の半分は前回の消費税引上げによる増収分から、残りは後期高齢者医療制度への各保険者からの支援金の拠出の算出方法の変更(全面総報酬割化)に伴う国庫補助の減額分から賄う(変更に伴い負担の減る協会けんぽへの国庫補助金減額分の一部を国保へ振り向ける)ことにより実現しています。
後者については、特に負担の増える健保組合の皆様方から、国保を助けるために自分たちの負担が増えるのは理屈が合わないと大変な批判がありましたが、そう思われるのは当然のことかも知れません。もちろん外部の人間として厚生労働省がどういう政策判断をされたかはわかりませんが、このような批判を想定しつつも国保の財政安定化を図ることが喫緊の課題であったということは確かだということと思います。
三千億円以上の公費という規模は、これまで全国の市町村が一般会計から赤字補填のために毎年繰り入れてきた金額にほぼ相当しています。
さて、都道府県が財政責任の主体として加わり、公費の大幅投入がなされるという改正がスタートしました。しかしながら、これによって国保加入者の属性、つまり高齢、低所得、高医療費といったものが変わるわけではなく、今後の人口の高齢化、産業構造の変化等により、その傾向がより顕著になっていくことは容易に予想されます。
そこで医療保険制度にとって最大かつ永遠の課題である医療費適正化です。その徹底を図ることがより強く求められますが、それでは医療費適正化を進める上で今回の大改正はどのような意味を持つのでしょうか。
今回の改正で国保の財政運営は主として都道府県が担うことになりましたが、それにとどまらず都道府県は管内の国保の統一的運営方針を定め、これに基づきこれまで市町村ごとにまちまちだった制度運営を中長期的に平準化していくことになりました。
ジェネリック医薬品の使用促進など医療費適正化への取り組みなども市町村ごとにまちまちな状況を、今後は都道府県がリーダーシップをもって底上げしていくことが期待されます。そして、このような市町村への指導という側面だけではなく、都道府県が国保の財政責任の主体となったことには別の積極的な意味づけもできると思います。
全国健康保険協会(協会けんぽ)の
ジェネリック医薬品使用促進の取り組み
全国健康保険協会 広島支部
1・広島支部の現状と課題
広島支部におけるジェネリック医薬品使用割合は、2018年6月時点で73.7%(都道府県支部別の順位は上から40位)と伸び悩んでおり、全国平均の76.3%から約2ポイント下回っています。また、中国地方5支部で比較しても、他支部より広島支部は使用割合が2ポイント以上低い状態です。
協会けんぽ作成の「ジェネリックカルテ」(地域ごとの阻害要因を見える化したもの)によると、広島支部の一般名処方率は全国平均を上回っているにも関わらず、使用割合が低位であることから、薬局もしくは加入者へのアプローチが、まだ不十分であることが判明しています。また、加入者に対して、「医師・薬剤師がジェネリック医薬品を勧めれば使用したいと思うか」とのアンケートを行ったところ、「使用したい」との回答が8割以上であったため、2018年度においては、薬局へのアプローチを中心に取り組んでいます。
2・2018年度の主な取り組み
◆ジェネリック医薬品取扱い優良薬局認定事業
2018年7月、ジェネリック医薬品の取扱い割合が80%以上の257薬局について、広島支部と広島県薬剤師会の連名で優良薬局として認定し、認定証と認定ステッカーを交付しました。また、広島支部のホームページに認定薬局名を掲載し、加入者へ周知しました。
この取り組みにより、より多くの薬局がジェネリック医薬品を患者に積極的に推奨し、さらに取扱い割合を高めて頂くこと、患者サイドも、より多くの方がジェネリック医薬品についての認識を高め、自ら希望されることを企図しています。
◆ジェネリック医薬品セミナーの開催
2018年8月、薬剤師及び薬局関係者を対象としたジェネリック医薬品セミナーを、初めて広島県との共催で開催しました。広島会場と福山会場の2か所で、下記の内容について講演を行い、合計約100名の方に参加いただきました。講演後に行ったアンケートでは、約8割の方から「積極的にジェネリックを調剤したい」との回答をいただきました。
講演内容
●広島県の後発医薬品の使用割合の現状と、使用促進に向けた新たな取り組みについて
(講師:広島県健康福祉局医療介護保険課)
●ジェネリック医薬品の有用性について
(講師:一般社団法人仙台市薬剤師会副会長 高橋 將喜氏)
●薬剤師のミッション
(講師:NPO法人健康サロン代表理事 水内 義明氏)
◆「ジェネリック医薬品に関するお知らせ」通知の発送
2018年9月、ジェネリック医薬品の普及促進のため、協会けんぽ加入者の方のレセプトを集計し、地域におけるジェネリック医薬品使用割合等について、医療機関(約1,700件)・薬局(約1,400件)へ「ジェネリック医薬品に関するお知らせ」通知による情報提供を行いました。また、通知に広島県からの協力依頼文を同封することにより、広島県全体での取り組みであることをアピールしました。
◆サンフレッチェ広島デザインのジェネリック医薬品希望シール
2018年10月、健康保険証やお薬手帳に貼り付けるジェネリック医薬品希望シールに、サンフレッチェ広島の球団マスコットを使用することで、これまでジェネリック医薬品について関心のなかった方や、乳幼児医療費助成制度が適用されるような年代の方に対して、ジェネリック医薬品に対するイメージ及び使用割合の向上を図りました。
シールについては、広島支部管轄の適用事業所への訪問時や、健康イベント実施時に配布したり、「3.今後の取り組み」に記載している乳幼児医療費助成制度終了のタイミングで発送する通知に同封する予定です。
3・今後の取り組み
国が示している2020年9月までにジェネリック使用割合80%の目標を達成するため、今年度から来年度にかけて、下記の取り組みを実施する予定です。また、広島県は今年度、厚生労働省が実施する「後発医薬品使用促進事業」の重点地域に選定されており、これまで以上に広島県と連携した取り組みを実施していきます。
■年2回発送している「ジェネリック医薬品軽減額通知(ジェネリックに切り替えた場合の差額を表示したもの)」とは別に、ジェネリック医薬品の使用割合が低く、加入者数の多い地域(広島市中区・南区)に対して、レイアウト等を変えて、再度、通知を発送する。
■従業員のジェネリック使用割合の低い事業所に対して、事業主あてにジェネリック医薬品の使用についてのお願い文書を発送する。
■被扶養者の乳幼児医療費助成制度が終了したタイミングで、被保険者に対してジェネリック医薬品に関するパンフレット及びジェネリック希望シールを送付する。医療費の自己負担が大きく増額されるタイミングで、ジェネリック医薬品についての情報を提供し、積極的に使用していただく動機付けを行う。
■2017年度から各医療機関・薬局に対して送付している「ジェネリック医薬品に関するお知らせ」(医療機関・薬局のジェネリック使用割合等を記載したもの)に、広島県の国民健康保険と後期高齢者医療制度の加入者データを加え、より精度の高い通知を作成する。
■使用割合が特に低い医療機関・薬局へ広島県と共同で訪問し、使用割合向上についてお願いする。