一生の愉しみ
代表取締役社長 髙橋 敦男
リレー随想への寄稿依頼が私のところに回ってきたが、さて、他の会員の皆様を差し置いて投稿して良いものか悩み、いざ決心して書こうと思ったが、何を書こうかまた悩み。そうこうしているうちに原稿の締切りが迫ってきた。結局、自分の趣味について書くに至った。私が唯一趣味と言えるのは、今から約30年前、会社から北海道大学へ研究員として赴いた札幌在住時に覚えた釣りである。出不精だった私に、せっかく北海道に来たのだからいろんなところに行ってみたいと家内が釣竿を買ってくれて(なぜ釣竿を買うことになったかは忘れてしまったが)、まず小樽へ釣りに行った。福島県郡山育ちの私にとっては始めての海釣りであったが、その時にたまたまイワシが大漁に釣れたのがきっかけとなり、私も家内もどっぷりと海釣りにはまってしまった。“北海道のつり”という月刊誌を購入して、その情報をもとに家内と毎週のように釣りに出かけた。石狩、小樽、留萌、積丹、寿都、室蘭、苫小牧、浦河、様似・・・。あの頃君は若かったではないが、今思えば体力があった。大学の研究室での仕事が終わった土曜の夜中に出かける。夜中から朝マズメまで釣りをして、昼過ぎに家に帰ってくる。また、家内が勤務していた薬局の同僚の方のお父さんが釣り好きで、その方の紹介で小樽の釣り同好会(おじいさんばかりの会でした)に入会させていただき、毎月釣り船にも乗った。兎に角、北海道は魚の宝庫である。自分が釣った魚だけでも、カレイ、アブラコ(アイナメ)、ガヤ(メバル)、ソイ、イワシ、カンカイ(コマイ)、カジカ、シャコ、カワハギ、キュウリ、チカ、アキアジ(サケ)、イカ、マス、ホッケ、タラ、柳の舞、・・・。海釣りの醍醐味と新鮮な魚の美味しさを十分堪能させていただいた。
会社に戻ってからは、家族をつれて、近場では福島県の相馬、いわき、宮城県の仙台、女川、田代島、岩手県の宮古、山田町、山形県の鶴岡、酒田・・・。車にキャンプやバーベキューの道具も積んで毎月出かけた。北海道と東北では、魚種や仕掛けがそんなに変わらなかったのも良かった。家族連れであったため、防波堤や車が駐車できる場所での釣りが多く、大きな魚は釣れなかったが、今考えると、釣りを通して家族とコミュニケーションをとれたことが何よりも良かったと思う。お蔭様で親子の断絶もなく、今でも娘達には仲良くしてもらっている。
仕事の都合で、福島から東京に引っ越したばかりの夏休みに伊豆大島へ遊びに行った時、朝早起きして下の娘と宿の近くの防波堤でアジを釣った時のことは、忘れられない思い出である。福島から東京の学校に転校してなかなか新しい環境に馴染めず、暗い顔をしていた娘が見せた久しぶりの満面の笑み、その時から少しずつ元気になっていったかな。
最近は、娘達は就職、結婚し、私も忙しくなり体力もなくなったせいかめっきり釣りに行く機会が減ってしまった。今は、年に数回、八王子上恩方にあるマス釣場へ行って、家族でニジマス釣りを楽しんでいる。もちろん、バーベキュー付。運動もしないでこんな生活をしていては、痩せるはずがない。ただ、娘達が釣りの楽しさを覚えてくれて、一緒に行ってくれることが楽しみである。
“ 一日愉しみたければ酒を飲むこと 一年愉しみたければ結婚すること 一生愉しみたければ釣りを覚えること”という中国の故事があるが、北海道で覚えた釣りは、私にとって、家族とのコミュニケーション場でありストレス発散の場であり、一生愉しめる趣味である。今年は、孫を連れて釣りに行こうと考えている。