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月刊JGAニュース

医薬品特例承認制度  

薬事日報社
村嶋 哲

 パンデミックなど緊急時の場合に、通常よりも早期に承認可能とする医薬品医療機器等法に基づく特例承認制度が、5月に新型コロナウイルス感染症治療薬「ベクルリー」(一般名:レムデシビル)で適用された。有事の医薬品承認制度だ。
 通常は臨床試験など必要な手続きを経て、承認申請しなければならないため、多大な時間を要する。特例承認は薬機法第14条の3に規定され、適用対象となる医薬品は、臨床試験以外の承認申請書類を承認後に提出可能とすることで、通常よりも迅速に承認できる。
 具体的な要件としては、▽国民の生命・健康に重大な影響を与える恐れがある疾病の蔓延等を防止するため緊急に使用することが必要で、その医薬品の使用以外に適当な方法がない▽日本と同等の水準にある承認制度を持つ国で販売が認められている――の条件を満たした医薬品について、薬事・食品衛生審議会の意見を聞いた上で承認する仕組みだ。国民の生命・健康を脅かす疾患について、自国で治療薬・開発が難しければ海外製品を迅速に調達するためのルールだと言えば分かりやすいかも知れない。
 2010年に新型インフルエンザ対策として、グラクソ・スミスクラインとノバルティスファーマのワクチンが特例承認の初適用となったが、政府は新型コロナウイルス感染症にも特例承認制度を利用。5月に薬機法の政令改正を行い、新型コロナウイルス感染症を効能・効果とする医薬品を特例承認の対象とし、米国で緊急使用許可を受けたレムデシビルが認められた。それまで日本と同等水準にある承認制度を持つ国はカナダや英国などの四カ国のみだったが、レムデシビルが米国で使用可能となったことを踏まえ、日本と同等水準の承認制度を持つ国に米国を新たに加えた。
 緊急時に必要な医薬品を届ける特例承認制度の意義は広く理解されているものの、業界側から運用面について問題提起がなされた。特例承認は、日本と同等の承認制度を持つ一部の国で販売されていることが条件で、臨床研究などで国内使用実績がある医薬品では、海外販売実績がなければ対象外となる。
 日本製薬工業協会の中山讓治会長は、「科学的根拠に基づき日本の独自判断で行われるべきではないか」と日本が先駆けて新型コロナウイルス感染症治療薬開発を進めた場合に、日本規制当局が自らの判断でリスクベネフィットを評価し、緊急事態下での規制判断を行えるよう改善を求めた。米国研究製薬工業協会(PhRMA)も、日本独自の有効性・安全性のエビデンスに基づく緊急的な使用やその後の承認への道筋が不透明とし、有効性と安全性の科学的エビデンスに基づき、日本が世界に先駆けて緊急使用を認める薬事制度の改革を要望した。
 承認後の審査プロセスも課題だ。特例承認の可否判断は限定的なデータに基づいているため、規制当局による継続的な審査も必要になる。製薬協医薬品評価委員会臨床評価部会からは、特例承認後は企業による適正使用任せで、安全性・有効性を評価する審査プロセスが確立されていないとの指摘もされている。承認時は有事のルール、しかし承認後は平時のルールで運用されるよう、市販後のエビデンス構築を考えた制度設計も重要だ。
 パンデミックなどの有事が起こってからのその場しのぎの対応ではなく、平時から緊急時対応を考えた法規制の整備が今後の課題となるだろう。先駆的医薬品や特定用途医薬品、条件付き早期承認制度が法制化されたが、いち早く患者に薬を届けるためには、平時にも特例承認制度のようなルールを適用させるべき医薬品もあるかも知れない。既にHIV治療薬では海外データのみで迅速承認を行うルールが存在している。臨床試験ではデータ収集が難しい疾患であるために、緊急対応的に使用許可を出し、事後的に集めて評価すべき医薬品もある。
 世界中の英知を結集させ、対象疾患の特異性や既存治療の状況をもとにリスクベネフィット評価を行い、販売後のデータ収集からエビデンスを構築し、有効性・安全性を確保する仕組みが求められる。

 

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