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2021年度薬価改定議論を振り返る

株式会社ミクス
ミクス編集部 デスク 望月 英梨

 2021年度から毎年薬価改定が導入される。20年末の大臣折衝では、乖離率5%超の品目を対象とすることで決着した。2016年12月20日に4大臣合意した「薬価制度抜本改革に向けた基本方針」に毎年薬価改定の実現が明記されてから4年の時が経過し、予告された通りの改定が導入されたと言える。超高齢社会が迫るなかで、社会保障システムそのものの変革が求められている。国民負担の軽減が命題となった薬価改定も、この延長線上にある。2025年まで残された時間も少ないなかで、2022年度改定の議論も本格化し、すでに議論は次のステージへと移っている。製薬業界のビジョンも、薬価や医療政策だけでは語れないとあえて断言したい。
 少し時間が経ってしまったが、21年度の薬価改定まで時を戻してみたい。2020年12月17日、加藤勝信官房長官、麻生太郎財務相、田村憲久厚労相の3大臣は、「毎年薬価改定の実現について」合意した。改定の対象範囲について、「国民負担軽減の観点からできる限り広くすることが適当である」ことを明記した。平均乖離率8%の0.5倍から0.75倍の中間である0.625倍(乖離率5%)を超える品目を“価格乖離の大きな品目”として、対象範囲とした。改定範囲は多くの場合、厚労相と財務相の2大臣での折衝で決定するなかで、“官邸主導”を印象付ける。取材するなかで、2016年末に同様の決定プロセスをたどったことを思い出した。それが、冒頭の菅首相が官房長官時代に、4大臣合意した「薬価制度抜本改革に向けた基本方針」だ。菅首相が10月26日の臨時国会における所信表明演説でも、「各制度の非効率や不公平を正す」必要性を強調。そのなかで、「毎年薬価改定の実現に取り組む」と表明したことも記憶に新しい。新型コロナの影響があったとは言え、毎年薬価改定の導入はあくまで既定路線だったと言える。
 こうしたなかで、製薬業界は、「慎重な検討」を求める姿勢を最後まで崩さなかった。いま現在も取材のなかで、製薬団体の交渉担当者から驚きの声を聞くが、正直なところ、その反応に一番びっくりしてしまった。
 2021年度改定の「慎重な検討」を求めたのは、製薬業界だけでない。日本医師会や日本薬剤師会など、中医協診療側委員も新型コロナの感染拡大で医療機関経営が大きく揺さぶられる中で同様のスタンスで臨んでいたと言える。新型コロナの感染予防策を講じた医療機関に対し、初・再診に5点(医科)上乗せすることが21年度の予算編成に向けた大臣折衝で決まった。この上乗せは、実質的にほぼすべての医療機関・薬局で算定できることから、新型コロナ禍の特例としながらも、初・再診などの点数引上げを決定したと言える。
 通常の診療報酬改定における薬価財源は、これまでも診療報酬の技術料への充足に用いられてきた。今回の決定プロセスでも、日本医師会は通常改定と同様のスタンスで臨んでいたことを取材を通じて強く感じた。
 中医協診療側委員の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は本誌インタビューに応え、「薬価だけではない、ある意味、中間年の改定のような性格が半ばあった」と語った。薬価改定の対象範囲を中医協で決める最終局面で、松本常任理事は改定案を一度保留したが、「日本医師会は薬価改定を行うのであればすべて、診療報酬本体に戻すべきということ、もともと足りていない技術料を補うべし、ということを強く求めたためだ。新型コロナへの診療報酬上の特例と薬価改定とはセットだと主張した」と説明。「快く受け入れたわけでは決してないが、最低限のラインとして、ある程度の薬価財源がコロナ対策として評価されるのであれば、ということで妥協した。もともとの考えを曲げたわけでは決してない」と強調している。詳しくは、Monthlyミクス2月号をお読みいただければと思う。
 2022年度改定に向けた議論もまた目前に迫っている。コロナ禍で医療機関経営は厳しさを増している。実際、日本医師会の推計では2020年度の総額医療費は、前年度から3兆円のマイナスとなり、40兆円前後になるという。「健康保険法において薬剤は診察等と不可分一体であり、その財源を切り分けることは不適当である」―。日本医師会の中川俊男会長は、21年度薬価改定議論が大詰めを迎えた12月16日の定例会見でこう強調した。診療報酬の動向に目を向けなければ、まさに木を見て森を見ず、ということに今年の議論もなりかねない。社会保障全体、さらには社会に目を向けた議論を期待したい。

 

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