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月刊JGAニュース

地域フォーミュラリー  

株式会社じほう 報道局日刊薬業編集部
大塚 達也

 有効性と安全性を担保しながら経済的に医薬品を使用するための推奨リストとなるフォーミュラリーの導入が、全国の病院で徐々に広がっている。平行して、医療機関の垣根を越えた地域全体へのフォーミュラリー拡大も各地で試行されている。

 フォーミュラリーのメリットは薬物治療に用いる医薬品を適切かつ効率的に選択できる点にあり、医師は薬剤選択にかける時間や手間を他の治療に当て、薬局は採用医薬品数を絞って余剰在庫を削減させられる。そして、推奨薬の選定においては有効性と安全性と同時に経済性が重要な要素となるため、同種同効薬では後発医薬品の優先度が高くなることが多く、社会保障費の抑制効果が期待される。

 フォーミュラリーは英国や米国など海外で導入が進んでおり、例えば英国では国が主導するBritishNationalFormulary(BNF)がある。BNFには医薬品の適応や用法・用量、禁忌、副作用などの情報のほか、費用対効果評価を行う独立機関NICE(NationalInstituteofClinicalExcellence)が作成した使用ガイドラインに基づく推奨具合の概要などが記載されている。

 国内では2015年の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)で「生活習慣病治療薬等について、費用面も含めた処方の在り方について検討する」ことが示された頃からフォーミュラリーの注目度が高まり、17年11月の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、降圧薬などにおいて国主導でフォーミュラリー推進を行うよう提案がなされた。

 そして19年度の中医協では20年度診療報酬改定に向け、特定機能病院において院内フォーミュラリー「使用ガイド付き医薬品集」の作成・維持を診療報酬で評価することの試行的導入が検討された。だが、診療側は▽安定供給の問題▽薬剤の実質的な使用制限になりうる可能性▽高度な医療提供体制において薬剤選択に経済性を重視する必要性があるのか▽医師の処方権が制限されるリスク-などの観点から反対の立場を示し、結局導入は見送られた。

 ただ、医療機関ごとの判断としてフォーミュラリーを採択する事例は増えており、厚生労働省が2019年度に実施した「後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査報告書」では回答した全国の病院306施設のうち院内フォーミュラリーを「定めている」が8.2%、「今は定めていないが、定める予定がある」が10.1%だった。18年度の調査では両方あわせて12.0%で、浸透が進んでいることがうかがえる。19年度調査では、薬効別の院内フォーミュラリー作成事例はPPI(経口)、PPI(注射)、H2ブロッカー、RAS系阻害剤などが多かった。

●地域フォーミュラリーのメリットと課題

 そのフォーミュラリーを地域全体に広げる動きも出ている。地域単位でフォーミュラリーを作成すれば薬剤費の削減効果を増大させられるし、地域において標準的な薬物療法を共有することで地域連携や地域包括ケアを円滑に進められる。

 山形県酒田市を中心とした庄内2次医療圏北部地域では山形県・酒田市病院機構を中心に9法人が参加して地域医療連携推進法人の「日本海ヘルスケアネット」を設立。18年11月から地域フォーミュラリーを開始した。同地域では少子高齢化や人口減の中で持続的な医療機関の経営や労働力の確保などに危機感を抱き、地域連携によってそれらの課題に対応している。同地域でのフォーミュラリーは地区の薬剤師会によって薬剤選定を行い、それに基づき、地区医師会長、薬剤師会長、総合病院長などで構成される作成運営委員会がフォーミュラリー案を作成。同委員会に開業医や保険者である自治体を加えた協議会が案を審議し、日本海ヘルスネットの理事会が承認して最終決定する。

 同地域においては、地域のシェア分析を行った上で、薬効や薬物動態、有害事象、経済性などの観点から同種同効薬内で対象薬剤を選考。各製品の採用企業については▽安定供給(原薬の複数ソース化、製造が自社か国内か、物流センター数、在庫状況など)▽品質(原薬製造所の査察状況、安定性、適応、印字など)▽価格-を中心に、バラ包装や割線、OD錠の有無なども含めて総合的に評価した。これまでARBやPPI、αグルコシダーゼ阻害剤、スタチン、バイオシミラーなどで推奨品リストが作られている。

 協会けんぽ静岡支部もレセプトデータを基に生活習慣病薬の後発医薬品への切り替えによる経済効果などを算出し、その資料を県内の基幹病院や調剤薬局に提供している。その他、東京都品川区や新宿区、茨城県西部などでも地域フォーミュラリー策定に向けた動きが出ている。

 フォーミュラリー導入実現の最大のポイントはやはり薬剤部と医師との連携だ。中医協の議論でも見られたように、処方権を持つ医師の理解が得られなければ、院内でも導入を進めることは難しい。ましてそれを地域に拡大しようとすれば、各医療機関や薬局、保険者などステークホルダーが多くなる。そこには処方権や医療の経済性、後発医薬品への信頼感、薬価差益の追求など内部に様々な温度差が発生し、調整がより困難になる。

 日本海ヘルスネットの場合、最初から地域連携ありきの合意があり医師・医療機関主導で推進したため課題をクリアできた。他の地域においても、誰が主導し何を目的としてどうステークホルダーに働きかけていくかが重要なファクターとなる。

●22 年度までにガイドライン策定

 経済財政諮問会議がまとめた新経済・財政再生計画改革工程表 2020 には後発医薬品の使用促進策として「後発医薬品も含めた、医薬品の適正使用に資するフォーミュラリガイドライン」を 22 年度までに策定することが記載された。健全経営や働き方改革も見据え、院内フォーミュラリーの導入は今後増加が見込まれる。同時に、少子高齢化への対応や社会保障費抑制の観点から地域への導入を検討する事例がさらに出てくることも予想される。

 

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