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月刊JGAニュース

国内製薬産業がいま、直面する課題~創薬力強化に向けて  

株式会社ミクス ミクス編集部 デスク
望月 英梨

 創薬力の強化にむけて、議論が活発化している。欧米に比べて、ドラッグ・ラグを指摘する声も、製薬業界をはじめ、ステークホルダーからあがるようになってきた。かつて、低分子創薬に強みを持つ、内資系企業からはスタチンをはじめ、日本発のブロックバスターが登場してきた。しかし、この状況は、低分子医薬品からバイオ医薬品へと創薬のモダリティが変化したことで一変した。
 世界の医療用医薬品売上高上位100品目のうち、バイオ医薬品の売上は半数を占める。2019年から26年までのバイオ医薬品の年平均成長率は9.6%と高い成長率が見込まれている。国内で販売される抗体医薬品も増加傾向にあるが、海外生産が9割となっているコロナ禍で国産ワクチンへの国民の期待が高まったが、欧米に大きく遅れを取り、いま現在も国産ワクチン、治療薬は登場していない。政府は、ワクチンの購入に2兆4000億円、治療薬に1兆5000億円を支出している。医薬品は輸入超過の状況が続いている。
 また、最近開発される新薬の大半は、バイオベンチャー由来だ。実際、新型コロナワクチンも、独Biontech(日本ではファイザーが製造販売承認を取得)、米モデルナなど、バイオベンチャーが創出している。同様に、ドラッグ・ラグが指摘される製品も多くはバイオベンチャーやアカデミア由来だ。薬価制度上の課題も指摘されるが、国内に足場のないバイオベンチャーにとって、参入障壁として耳にするのは、資金が循環せず、必要な開発資金を円滑に確保できない、いわゆるエコシステムの課題だ。新たな製品を早期に導入するためには、日本で研究開発拠点を有する、国内の製薬企業の基盤強化が急務と言える。
 こうしたなかで、政府は昨年6月、「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を閣議決定しており、動きも出始めている。3月22日には、「先進的研究開発戦略センター(SCARDA)」が発足した。平時から、実用化を見据え、基礎研究から実用化に向けた開発まで一気通貫で、戦略的な研究費のファンディングを行うことで、ワクチンの研究開発を強力に推進する。
 投資をめぐる環境整備も進める。経済産業省は「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」で、日本医療研究開発機構(AMED)を通じ、ベンチャーキャピタルの公募を開始した。政府が本格的に医薬品に特化したベンチャーキャピタル事業に乗り出すのは初めてで、注目を集めている。国内に創薬ベンチャーの事業化を支援する拠点を有し、創薬ベンチャーをハンズオン支援できる常駐スタッフを配置していることなどの要件を満たすベンチャーキャピタルが応募できる。直近5年間で投資金額の1/3を創薬分野に投資することや、担当案件が5件以下など、必須要件は厳しく見える。ただ、この事業で特徴的なのは、要件を満たすことができれば認定を受けることができる点だ。認定要件が明確化されていることで、ベンチャー企業やアカデミアにとっても、創薬に注力する、模範的なベンチャーキャピタルを見分けることができる。
 政府の経済財政諮問会議の民間議員は4月27日、「創薬力の強化に向け、コロナ禍で遅れが明らかになった開発薬の実用化に要する治験・審査などの期間の短縮を目指し、税制・予算の支援や規制改革の推進を強化すべき」と提案した。岸田政権は、新たな資本主義実現に向け、“成長と分配の好循環”の強化を目指すなかで、「対外経済面からの収益拡大と所得流出」を柱にあげた。医薬品については、対内直接投資を増やすことで、対外ショックに強い経済構造の構築につながると指摘している。今後加速する、経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)に向けた議論も、日本の創薬力強化の観点から注目したい。

 

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