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月刊JGAニュース

安定確保医薬品について  

安定確保医薬品の定義
 安定確保医薬品とは、日本医学会傘下の主たる学会の各専門領域において、医療上必要不可欠であって、汎用され、安定確保が求められる医薬品として提案されたもので、我が国の安全保障上、国民の生命を守るため、切れ目のない医療供給のために必要で、安定確保について特に配慮が必要とされる医薬品のことを言います。

背景
 比較的安価な医療用医薬品(抗菌薬等)の多くは、世界的に見て中国・インド等の数社に医薬品原料や原薬の製造が集中しているのが現状です。日本より人件費が安く、世界規模での大量生産による効率化が図れるなど、国内製薬メーカーにとって海外製造は採算性や効率性の課題を解決する手段の一つとされています。
 また、このような医療用医薬品の多くは、サプライチェーン(原料→中間体→原薬→製剤の流れ)が複数の国にまたがっていることが多々あります。他国のどこかで原料等の供給不安が生じた際に、国内での医薬品供給対応の遅れが生じる懸念があり、医療上必要不可欠な医薬品であっても海外製造に頼らざるを得ないという安全保障上の課題がかねてから指摘されていました。

 2019年3月~11月にかけて抗菌薬「セファゾリン」の安定的な供給が滞り、医療の円滑な提供に深刻な影響を及ぼす事案が発生したことは記憶に新しいと思います。これは、中国等での医薬品原料や原薬の製造上のトラブルに起因する代表的な事案でしたが、この他にも様々な要因で供給不安に陥る事案が度々発生しており、供給不安に関する国民意識の高まりとともに、国民の生命を支える重要な物資としての医薬品の供給を安定的に確保するための対策の必要性を望む声が一層高まることとなりました。

 これを受け、2019年8月には日本化学療法学会を始めとする4学会から、同年11月には日本医師会から、それぞれ安定的な医薬品の供給を求める緊急要請が出されました。更に、同年12月には、全世代型社会保障検討会議中間報告において「医療提供体制の改革」として「必要不可欠な医薬品の安定供給の確保」が盛り込まれました。

 また、近年では新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、2020年2月以降、中国やインドなどの海外に依存する原薬の製造、輸出が停滞する事態に陥り、国内における医薬品の安定供給に支障が生じたことが複数報告されました。

 このような背景から、厚生労働省医政局長の意見聴取の場として、医薬品製造や流通に関するステークホルダーや有識者から構成される会合「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」が2020年3月より開催されるに至りました。そして、必要とされる医薬品の安定確保策について4回にわたり議論され、同年9月に取りまとめられました。

医療用医薬品原薬の安定確保の阻害要因

「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」における検討内容
 当会議において、医療現場目線で安定確保が求められる医薬品リストを作成すべく、日本医学会を通じて、各学会で検討された結果、長年汎用されており、安定確保が求められる医薬品のうち、以下の要件を満たす506成分が安定確保医薬品としてリスト化されることになりました。
➢ 対象疾病が重篤であること
➢ 代替薬(治療法)がない(又は限られている)こと
➢ 治療待機、投与中断により生命に直結するリスクの高い疾患に使用されること
➢ 多くの患者が服用していること
➢ 薬価算定基準の「低薬価品」の特例対象となっていること

 また、選定された安定確保医薬品については、以下の点から順に対応の優先順位を付けることとされました。
①供給不足により生命に直結する医薬品(国内生産への移行の検討が必要)
②供給不足により治療に大きな影響がある医薬品(国内生産への移行が難しければ、在庫量を増やす対応等の検討が必要)
③供給不安のある医薬品(供給が1社のみ、等)
 以上の結果として、一例となりますが、以下のとおりカテゴリA ~ Cの安定確保医薬品リストが取り纏められました。

(1)最も優先して取組みを行う安定確保医薬品(カテゴリA):21成分
重篤患者の生命維持に極めて重要な薬剤が選定されており、外科領域で使用される薬剤が多い点が特徴的。
(2)優先して取組みを行う安定確保医薬品(カテゴリB):29成分
カテゴリAと同様に重篤患者の生命維持に極めて重要な薬剤が選定されており、内科領域で使用される薬剤が多い点が特徴的。
(3)安定確保医薬品(カテゴリC):456成分
その他の安定確保医薬品で、後発医薬品が最も多い。

 医薬品の安定供給の責務は一義的には各製造販売業者が負っています。しかし、重要な医薬品については、国も各製造販売業者の取組みに対しより積極的な関与が必要であると考えられます。このため、安定確保医薬品については、対象疾患の重篤性、代替薬の有無等による対策の必要度を勘案して個別にカテゴリが設定され、このカテゴリを考慮しつつ、(1)供給不安を予防するための取組み、(2)供給不安の兆候をいち早く捕捉し早期対応に繋げるための取組み、(3)実際に供給不安に陥った際の対応等を順次進めていくこととされました。

医薬品の安定確保を図るための取組(現状と今後の取組)

 言うまでもなく医療用医薬品の安定確保は重要です。特に、医療現場で重要な役割を担う医薬品が突然欠品することは、医療の提供に支障を来すおそれがあるため、一層の安定確保のための方策が求められます。例えば、品質問題に起因して供給不安が生じる事案については、原薬等の品質を確保するため、PMDAや製造業者、製造販売業者のGMP/GQPに基づく恒常的な品質管理等により、品質問題が起こらないようにすることはもちろん重要なことと言えます。一方で、安定確保を補完するための薬価制度(薬
価上の措置)も供給側としては重要な論点となります。

安定確保医薬品に係る薬価上の措置
 上述のとおり、医療上必要不可欠であって、汎用され、安定確保が求められる医薬品として安定確保医薬品が選定され、カテゴリを考慮したうえで種々の取組みが行われることとなりました。選定された506成分の安定確保医薬品については、その製造工程についての把握・管理や、供給に関するリスク評価、製造の複数ソース化の推進などを行うこととなっており、従来以上の安定供給体制の整備が求められることになります。そのため、不採算品再算定や最低薬価等の既存の薬価制度の仕組みを適切に活用するとともに、基礎的医薬品の対象とするなど、薬価を維持・下支えするための措置を充実させる必要があるとして製薬業界から強く要望しており、中央社会保険医療協議会における令和4年度薬価制度改革に関する議論の結果、安定確保医薬品のうち優先度の高い品目(カテゴリAに分類されている品目)が基礎的医薬品の区分として新たに追加されることとなりました。

 安定確保医薬品のカテゴリAに選定されている21成分のうち、新たな薬価上の措置を受けたものは以下のとおり8成分69品目でした。

 安定確保医薬品については、今後も医療用医薬品の安定確保の体制構築に向けて議論が行われると思いますので、引き続き、関係審議会の動向を注視する必要があると考えております。

 < 関連資料等 >
○医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議(取りまとめ)資料より抜粋
https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/000676422.pdf

○抗菌薬の安定供給に向けた4学会の提言 ─生命を守る薬剤を安心して使えるように─ 
http://www.chemotherapy.or.jp/guideline/4gakkai2019.html

○医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議(第2回)資料より抜粋
https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/000643578.pdf

○医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議(安定確保医薬品リスト(令和3年3月26日))
令和3年6月1日修正版
https://www.mhlw.go.jp/content/10807000/000785498.pdf

 

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