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月刊JGAニュース

市民参加型調査研究  

 先日、帰宅すると玄関に3cm程の深さの土が敷き詰められた見慣れない虫かごが置いてあった。息子がクワガタを捕まえたので飼うことにしたとのことであった。私も子供時分にはよくカブトムシやクワガタをつかまえて飼育していた。飼育の先輩として、太めの枯れ枝など下に潜って隠れる場所を作っておくと良いとアドバイスした。別の日、帰りが遅くなり寝静まっていた我が家の玄関の明かりをつけると、例の虫かごが目に入った。エサのメロンを食べている昆虫のお尻がみえた。あれ?大きな違和感を持った。
これは、クワガタじゃない。翌日、息子にその事実を伝えたが、納得してもらえない。クワガタのメスだと主張している。全体のフォルムやバランスをみればクワガタでないことは間違いないと言っても、「フォルムって何だ?バランスって何だ?」と言われると返す言葉がない。結局、図鑑の写真と比較させることで、理解はしたようだ。だが、今度は「図鑑と比較する前から、なんでクワガタではないとわかっていたのか?」と質問され、全体のフォルムやバランスだと答えても、当然ながら納得はしてもらえなかった。
 私の曖昧な説明とは違って、フォルムやバランス、これらを数値化し分類することまでできてしまうのが今の世の中である。画像診断や画像解析は当にその応用と言える。今ではスマホ用アプリで生き物を撮影すれば、名前がわかるようなものまであるらしい。そんなアプリを調べている中で興味深い事実に遭遇した。
 生物多様性の包括的保全が喫緊の課題とされており、実用的な生物多様性広域モニタリング手法の確立等が重要であると言われている。そんな中、注目を集めているのが市民科学だ。多様な背景をもつ市民が研究者と連携しながら、科学研究の多様なプロセスに参画することによって、科学への貢献だけでなく、社会的な課題・要求にも応えていくための方法論を検討する新興の学術領域とされている。スマートフォン・タブレット端末で市民が撮影した位置情報付きの生物写真を収集し、AIにより自動で同定、データベースとして蓄積することで、植物を含む網羅的な生物分布の広域モニタリングが飛躍的に進展する可能性があると考えられている1)。
 写真撮影という手軽な行動で、研究の一端を担うことができるという発想や技術に大変驚いた。息子に参加を勧めてみたが、「ゲームの方が楽しいからやらない」との寂しい回答であった。ゲームでは一生懸命になってモンスターをつかまえようとしているのだが・・・。

(H.N)

<参考> 1):植物科学最前線 11:208 (2020)

 

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