始まるか、後発品の業界再編 Meiji Seika/ダイトが協業
報道局 海老沢 岳 氏
Meiji Seika ファルマとダイトが「新・コンソーシアム構想」の実現に向けた協議を始めた。業績低迷によるやむを得ない再編ではなく、後発医薬品の安定供給を持続可能にするための前向きな取り組みだ。これまで後発品企業同士の再編に向けた動きは表面化していなかったが、今回の動きが再編の号砲になるのかどうか。関係者に聞いた。
●敷居下げ、仲間が集まり始めた
このコンソーシアム構想は、Meijiの小林大吉郎社長が昨年7月の記者説明会で打ち出していた。Meijiを含め、2~3社が出資して製造販売会社の形態を持つ「機能統合法人」を設立し、後発品の屋号を統一するというものだ。だが、参加企業を募ったものの、名乗りを上げるところはなかった。他社が「Meijiに吸収されてしまう」と警戒したからだ。
その状況が変わりつつある。両社の関係者によると、Meijiの小林社長とダイトの松森浩士社長兼CEOは日本製薬団体連合会の保険薬価研究委員会を通じて、長年交流があった。その2人が、後発品の生産効率問題の改善に向けて意気投合。松森氏が「敷居を下げなければ仲間が集まらない」と助言し、Meijiが当初掲げた機能統合法人の設立は、コンソーシアムの最終的な選択肢の一つにとどめ、まずは生産拠点の集約化から始めることで合意した。Meijiとダイトは、両社が持つ同一成分の製品について、一方の工場で生産するための協議に入っている。
こうした見直しが功を奏したのか、現在は両社以外にもコンソーシアムへの参画を希望している企業が複数あるという。ダイトは自社販売しておらず、製造販売承認を持つ44成分108品目の医薬品は、全て他社が販売している。このため業界内では「販売企業がコンソーシアムに参加するのではないか」との臆測も流れている。
●東和と沢井は自社増強
他社の動向はどうか。業界最大手の東和薬品と沢井製薬は、共に約800品目と圧倒的な数の後発品を持つ。両社は業界再編について、5月の決算説明会で言及。他社と議論していることは認めつつも、共に自社製造能力の増強を優先する姿勢を示している。
ある幹部は「新薬企業同士の買収なら製品同士が競合せず、売上高が伸び、両社の固定費を節約するシナジーを生みやすいが、後発品企業はどこも同じ製品を販売しているため、相乗効果が生まれにくい」と指摘する。大手が他の後発品企業を買収する戦略には否定的だ。設備投資によって自社の余剰生産能力を高め、後発品の代替需要を取り込む作戦だという。
●JWP連合に業界の関心
東和と沢井に次ぐ品目数を誇るのが、ジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)連合の3社だ。日医工、共和薬品工業、武田テバファーマは、メディパルホールディングスと投資ファンドのJWPが出資する合同会社の傘下にあり、重複する品目の統合・集約を進めている。
ここは不祥事や業績低迷を背景に、自力での業績回復が厳しい企業が外部の資金を取り入れて経営を立て直しているグループだ。Meijiやダイトとは毛色が異なる。とはいえ、さまざまな形態がある業界再編の中で、最も経営統合に近いグループであるため、業界内でも関心を集めている。
他社からは、「ファンドが新たな事業買収を行うのではないか」、あるいは「当面は統合作業を優先するのではないか」といったさまざまな観測が出ている。
●経営統合に相乗効果はないが
中堅メーカーの経営者に、事業規模を拡大するための買収について意見を尋ねると、見方が分かれた。ある人は「仮に買収の話があっても、一緒になることでシナジー効果が得られるかが重要だ。今はそのイメージが湧かない」と慎重な姿勢を示す。
別の中堅企業経営者も、「中堅同士がくっつく利点はない」と断言する。ただ、この経営者は毎年薬価改定による業績低迷や、念書ルールの導入で中小企業が新規後発品を発売しにくくなった状況を説明しつつ、「自力での事業継続が難しく、後継者が見つからないという小さな企業を数社知っている」とも話す。そうした企業が破産すると、結局は業界全体で不足分を増産し、補う必要があるため、「製造所と人材を生かすための買収も、選択肢としてはあり得る」と語った。ただ、負債を抱えた企業を買収して採算を合わせることには難しさもある。
品目統合で競合企業の数が減っても、過度なプラス効果は期待できないという指摘もある。準大手企業の関係者は「他社が撤退した品目の代替先になっても、撤退企業が供給していた数量全部が自社の売り上げにつながるわけではない。仮に自社のシェアや認知度が市場の20%だとしたら、その分の代替需要しか入ってこない」と話す。
●各社の生き残り戦略に注目
日薬連の調査によると、2025年4月現在、後発品の供給に支障が出ている割合は17.3%だ。医薬品不足は依然として続いている。後発品業界にとってみれば、売り手市場だ。だが、1年前の状況と比べると、供給に支障が出ている割合は10ポイント以上改善している。今後、供給不足が解消すれば、購入側との立場が逆転する。さらに26年度には後発品の企業指標に基づくABC評価の企業区分が公表される。一定の規模を持ち、生産効率が高く、筋肉質の収益構造を持つ企業が市場から評価されるようになる。
さらに国は26年度から5年間の時限措置で、生産性向上に向けた後発品企業の設備投資を補助する。こうした国の支援を見越して、Meijiとダイトのコンソーシアムは企業価値を高めるためのチャレンジに打って出た。これを機に、今まで表面化していなかった各社の生き残り戦略が浮かび上がってくる可能性がある。