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月刊JGAニュース

30年間の畑奮闘記:諦めかけた畑の再出発  

 私は神奈川県の中央エリアに住んでいます。

 今から約30年前、父が定年退職したのを機に、両親は畑を始めることにしました。母が相続した自宅から車で20分ほどの場所にある河川敷の空き地を、畑にする計画を立てたのです。

 この土地は、以前は川砂利の採掘現場として貸し出されていました。掘削で大きな穴が開いていましたが、農地に戻すため、山の宅地造成で出た残土で埋め立てられ、返還されたものです。その後しばらく放置されていたため、葛、アシ、ススキなどの雑草が生い茂り、冷蔵庫やバスタブ、便器、タイヤなどの不法投棄による粗大ごみもあって、とても手のつけられない状況でした。

 しかし、両親と私の3人で、少しずつ鍬やスコップを使って手作業で開墾を進めた結果、なんとか畑らしい形になっていきました。

 本来の土壌は砂地で水はけが良く、根菜類がよく育つはずでした。ところが、埋め立てに使われた山の残土が粘土質だったため、固まりやすく水はけが悪く、作物を育てるには厳しい状態だったのです。

 そこで私たちは、刈り取った草や稲のワラ、落ち葉を集めて堆肥を作り、牧場からトラック一台分の牛糞を購入して土にすきこむなど、少しずつ土壌改良を行いました。その甲斐あって、ジャガイモやタマネギを皮切りに、さまざまな野菜が育つようになりました。

 「野菜を育てるには肥料と水があれば簡単だ」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現実はそう簡単にはいきません。野菜の種類によって、種まきや植え付けの時期、土壌の酸度、肥料の種類やタイミングが異なります。また、同じ土地で続けて栽培できない連作障害など、多くの壁があるのです。何より、豪雨や日照りといった天候、雑草、害虫、病気との闘いは至難の業でした。私は農作業を手伝えられるのが土日や祝日くらいだったので、両親はさぞ大変だったと思います。

 私が50代になり、仕事で金沢へ単身赴任することになったタイミングで、父が脳梗塞で倒れてしまいました。そのため、畑は6年間ほぼ放置状態となってしまいました。一度畑作業を怠ると、あっという間に雑草が生い茂り、せっかく開墾した土地は荒れ放題です。6年間の単身赴任を終え、定年退職して戻ってきた私が荒れ果てた畑を見た時は、途方に暮れました。

 そんなある日、農業を営んでいる親戚がトラクターで畑を耕してくれることになり、畑再開の目処が立ちました。現在では、年間約30種類の野菜を育てられるようになっています。

 しかし、近年の地球温暖化による異常気象は、農業をされている方々にとって非常に厳しい時代になったと感じています。野菜の価格高騰や、米騒動などが実際に起きていますが、持続的かつ安定的に農産物を国内で自給するためには、第一次産業を見直す必要があるでしょう。AIを活用し、可能な限り機械化を進めて効率的な農業を行うことが求められています。

 これは、私がいた製薬業界にも通じるところがあります。高品質な医薬品を持続的に安定供給するためには、人手不足を補うためにAIやロボットの活用、そして設備投資が不可欠となっているのです。

(T.O.)