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月刊JGAニュース

BSの有効性比較試験、原則不要か  

株式会社じほう
報道局 海老沢 岳 氏

 バイオシミラー(BS)の開発で原則実施を求められてきた有効性比較試験(CES)が、実施を不要とする方向になっている。その検討が2025年11月、医薬品規制調和国際会議(ICH)のシンガポール会合で始まった。分析技術の進歩を背景に、欧米の規制当局が、品質試験データで同等性を確認できるケースがあるとの見解を示している。
 CESを巡っては、ICH総会で新たにM18「バイオシミラー開発プログラムにおける有効性比較試験の有用性決定の枠組み」のトピック化が決まった。25年11月には専門家作業部会を初開催。早ければ、3年以内にCESの必要性を判断するガイドラインが採択される見通しだ。

○欧米当局が方向性提示

 BS開発は通常、非臨床試験を経て、健常人を対象とした臨床薬物動態(PK)試験および薬力学(PD)試験を実施し、さらに患者を対象に先行品と有効性を比較するCESを行う、という流れになる。日米欧のいずれも、こうした枠組みが原則だった。
 しかし、欧州医薬品庁(EMA)は25年3月、CESを省略できるケースを示した「リフレクションペーパー案」を公表。PK試験と可能な限りのPD試験で同等性や同質性を頑健に示せる場合、CESは不要という考えを打ち出した。
 米FDA(食品医薬品局)も同年10月、CESを実施しなくても承認申請を認める「ガイダンス案」を公表。▽クローン細胞株由来で高度な精製・特性解析が可能▽品質属性と臨床効果の関係が既知▽臨床的に妥当なPK試験が実施可能―の3条件を満たす場合には、CESが不要な場合があり得ると整理した。

○分析の進化と審査の蓄積

 BS規制に詳しい国立医薬品食品衛生研究所・生物薬品部の石井明子部長は日刊薬業の取材に応じ、CESの見直し議論について「分析技術の進化と、承認審査の経験蓄積の両方が影響している」と指摘する。
 当初、抗体医薬などの高分子薬は、分子量の大きさや糖鎖構造の違いなどから、品質試験だけでは同等性を判断できないとされ、一定規模のCESが求められてきた。しかし近年は分析技術が高度に発達し、品質試験段階で差異を精緻に把握できるようになってきた。石井部長は、実際の審査実績を踏まえて「CESを簡略化しても臨床的影響は確認されていない」との認識が広がったのではないかと推測する。EMA文書でも、これまでCESのデータが承認の可否判断に影響したケースは少なく、実質的にはPK/PD試験で評価可能だったとの記載がある。
 石井氏は「CESは患者が参加する大規模試験で、企業の負担が大きい。科学的に品質試験で判断できるなら、開発コストを下げなければ、持続可能性を保てないとの危機感も当局にあったのでは」と話す。企業負担を軽減することで、BSの開発を促進し、さらには薬剤費の抑制につなげるという期待感があったのではないか、との指摘だ。その上で、今後のICHの作業部会は「CESをなくすことを前提に、逆にどのようなケースでCESが必要かを議論することになるのではないか」と予測した。
 ICHの議論をリードする狙いからか、FDAはガイダンス案で、硝子体内投与製品などの局所作用型製品について、依然としてCESが有用になり得ると明記している。局所投与製剤は投与量が極めて少ないため、血中濃度に現れにくく、PK比較が困難だからだ。
 一方、厚生労働省医薬局医薬品審査管理課は日刊薬業の取材に対し、「(ICH-M18の)議論は始まったばかり。作業部会で科学的に考察すべき事項を明らかにしていく」とコメントした。

○反発は起きにくい

 気が早いかもしれないが、もしICH-M18が合意に至り、CESが原則不要になった場合、医療機関はそのBSを受け入れられるのか。BSに詳しい日本病院薬剤師会の川上純一副会長は日刊薬業の取材に対し、「医療機関側から大きな反発は起きにくいだろう。ただし、丁寧な説明が不可欠だ」と話す。
 医療機関がBSを採用する際、多くの施設は当該薬剤が薬事承認を取得し、薬価収載されていれば、大きな疑義は持たない。最終的に採用品を判断する鍵は、「安定供給」と「経済性」になることが多いという。
 川上氏は「医療現場には、ジェネリックやBS導入を乗り越えてきた経験がある。適切な説明があれば、(CESを行っていないBSでも)受け入れ可能だ」と指摘。厚労省に対しては、科学的な根拠の分かりやすい発信や、省内の承認審査・産業振興・医療保険の縦割り組織を超えた包括的な説明を求めた。さらに医薬品医療機器総合機構(PMDA)や業界団体との連携も求めた。

○CES論議は保険財政にも影響

 日本バイオシミラー協議会によると、BSを1成分開発するためには約50億~300億円の費用がかかるという。後発医薬品の約1億~10億円と比べると、桁違いにコストが高い。その主な要因は、CESの実施だ。もしCESが「原則実施」から「科学的条件を満たす場合は省略可能」になれば、BS参入のハードルが下がりそうだ。その結果、競争環境が整い、薬剤費抑制に寄与する可能性が高い。
 抗PD-1抗体「オプジーボ」の物質特許は2031年に、「キイトルーダ」は33年に失効する予定だ。低分子薬から抗体医薬へと売り上げ上位品目が移る中、大型バイオ医薬品の特許満了に備えておくことは、保険財政の面でも重要だ。