第28回日本医薬品情報学会総会・学術大会に参加して
会期:2026年7月11日(土)、12日(日)
場所:東京理科大学 葛飾キャンパス
【シンポジウム】
テーマ:どうする?長期収載品目撤退で古い薬の情報がなくなってしまいます!
座長:俵木 登美子(一般社団法人くすりの適正使用協議会)
後藤 伸之(名城大学薬学部)
オーガナイザー:俵木 登美子(一般社団法人くすりの適正使用協議会)
シンポジスト:大野 公嗣(日本ジェネリック製薬協会)他3名
本記事では、シンポジストの一人であるGE薬協 安全性委員会 副委員長の大野 公嗣氏の発表内容について紹介いたします。
【発表演題】
長期収載品撤退時の情報保管のあり方について ━ ジェネリック医薬品の立場から
GE薬協 安全性委員会では、2017年の医療用医薬品添付文書記載要領改正や、2018年4月13日に発出された厚生労働省 医薬・生活衛生局 医薬品審査管理課長、同 安全性対策課長の二課長通知「後発医薬品の添付文書等における情報提供の充実について(以下、「情報提供充実通知」と記載)」に基づき、ジェネリック医薬品の添付文書の情報充実に向けた取り組みを継続して行っております。この2017年の記載要領改正によりジェネリック医薬品の添付文書の「使用上の注意」、「取扱い上の注意」は、原則として先発医薬品と同一記載することが記載要領上で規定されたことにより、ジェネリック医薬品についても情報充実が図られているところです。
一方、添付文書の「16. 薬物動態」、「17. 臨床成績」、「18. 薬効薬理」については、情報提供充実通知により、公表されている資料(先発医薬品の申請資料概要、審査報告書及び学術文献等)などを基に先発医薬品の添付文書と同等の情報提供を行うことが求められています。同等の情報提供を行うにあたって、ジェネリック医薬品の各製造販売会社は公表されている各資料を適切に収集し、内容を確認・精査したうえで、製造販売業者として責任を持って自社添付文書を作成し、その情報提供活動を行う必要があります。
GE薬協 安全性委員会では、こうした考えに基づき、会員各社に対して、当該考え方の普及啓発活動に加え、実際に同等の情報提供を行ううえでの考え方の整理などを行ってまいりました。これらの活動を継続して積み重ねていくことにより、先発医薬品と同等(検討の結果、同一となった場合も含む)の情報提供が実現できた事例も出てきております。ただ、公表されている資料だけでは先発医薬品添付文書に記載されている各種データの数値や記載されている内容が再現できない事例や、同等の情報提供と判断することが難しいことから添付文書から項目ごと記載削除せざるを得ない事例もあります。
近年、医療現場において、先発医薬品からジェネリック医薬品への切替が進んでおり、先発医薬品(長期収載品)としてもジェネリック医薬品に市場を委ねるケースがみられております。そうした状況から、先発医薬品が薬価削除手続きを経て承認整理等を行い市場から撤退する事例が見受けられるようになりました。前述の通り、先発医薬品とジェネリック医薬品の添付文書には同等あるいは項目削除に至った項目が存在するなどの情報相違があることから、市場から撤退した先発医薬品(長期収載品)の添付文書がPMDAホームページから削除されることによって、先発医薬品の添付文書に記載されていた「オリジナルな医薬品情報(先発医薬品企業のみが所有する情報等)」が日本では参照できなくなる事例が出てきました。
現状、このような状況が散見されており、医薬品の適正使用確保のため、ひいては患者さんに安全に医薬品を使用していただくためにも、市場から撤退する先発医薬品(長期収載品)に係る必要とされる医薬品情報についても継続的に公表(アーカイブ)されることが必要なのではないか、と考えるに至りました。
こうした状況を踏まえ、医薬品情報の消失問題に大きな懸念をお持ちのくすりの適正使用協議会・俵木理事長及び名城大学・後藤先生の発案により、先発医薬品(長期収載品)の市場撤退後の医薬品情報の現状と課題を明らかにし、適切な薬物療法を支えるための医薬品情報のあり方について話題提供を行う趣旨で今回のシンポジウムが開催されました。
シンポジウムでは、病院薬剤師、ジェネリック医薬品団体、先発医薬品(長期収載品)企業、行政の立場から現状整理や今後のあるべき姿についてそれぞれ講演を行ったうえで議論が行われました。GE薬協 安全性委員会からは、ジェネリック医薬品の添付文書やインタビューフォームの情報充実の歴史を振り返ると共に、情報相違の現状について説明を行いました。
添付文書において情報相違が発生する主な理由としては、
①先発医薬品添付文書の主要文献欄に公表資料が記載されていないこと(添付文書に記載されている内容の根拠となる資料・文献等の特定が困難)
②先発医薬品添付文書の薬物動態などの記載に関する引用資料が明記されていないこと
③先発医薬品添付文書の主要文献欄の公表資料が複写謝絶等の理由により入手できないこと
④公表資料だけでは先発医薬品添付文書に記載されている数値や内容の正確性が確認できないこと
以上の4点であることを説明いたしました。
また、添付文書を補完する重要な情報であるインタビューフォームにおいては、ジェネリック医薬品添付文書の情報充実に伴って情報もある程度は充実の傾向ではあるものの、添付文書に記載されている情報の再掲に留まっている事例や、用法・用量の設定根拠や薬物動態・臨床薬理の詳細においては質的・量的な情報相違が存在することなどについて説明いたしました。
更に、ジェネリック医薬品企業のコールセンター(社外からのお問い合わせに対応する部門)において回答を行う際には、自社製品の開発過程で得られた知見に基づく情報提供のみならず、公表されている先発医薬品の関連情報も参考に回答していること、特にインタビューフォームは回答参考情報の第一選択として用いられていることなど、GE薬協 安全性委員会 運営幹事会社の7社を対象としたアンケート調査結果を基に説明いたしました。なお、PMDAホームページに公表掲載されている先発医薬品の添付文書やインタビューフォームは、先発医薬品の販売中止後、然るべき時期に削除され、ジェネリック医薬品企業における情報提供活動にも支障をきたすことがある現状についても触れさせていただきました。
シンポジウムでは、ジェネリック医薬品企業における情報提供の現状を説明した上で、先発医薬品の市場撤退の状況について、GE薬協 安全性委員会 運営幹事会社の7社を対象としたアンケート調査結果を基に説明いたしました。7社が製造販売するジェネリック医薬品502アイテム中43アイテム(アイテムとは、含量や屋号を除外し、製剤区分と成分名を掛け合わせたもの)の先発医薬品で既に薬価削除のうえ撤退済み、あるいは撤退見込みであることが明らかとなりました。
2015年にGE薬協 安全性委員会が学術雑誌「ジェネリック研究」に投稿した論文中に記載されている先発医薬品不在のジェネリック医薬品一覧を、今回のアンケート調査と同じ考え方で整理すると13アイテムが先発医薬品不在であったことが確認されています。すなわち、この約10年で先発医薬品不在のジェネリック医薬品が30アイテム増加したことになっています。今回のアンケート調査結果で確認された先発医薬品不在となっている43アイテムの成分は、供給確保医薬品カテゴリーAに該当するバンコマイシン注射剤1アイテム、同カテゴリーCに該当するアロプリノールをはじめとした15アイテム、同カテゴリー対象外ではありますが、アカルボースをはじめとして27アイテムであることも説明いたしました。
市場から撤退する先発医薬品に関する医薬品情報のアーカイブの必要性については、前述の通り医薬品の適正使用確保のため、ひいては患者さんに安全に医薬品を使用していただくためでもあり、そのためにも医療関係者の先生方自らが直接あるいは間接的に医薬品情報に継続してアクセスできる環境を整えることが必要になります。また、先発医薬品の後を引き継ぐジェネリック医薬品の製造販売を行っているジェネリック医薬品企業が、自ら情報提供を行うためにも、そして医療関係者等からのお問い合わせに対して適切に回答するためにも、これらの情報は必要であると考えられることも説明いたしました。
医薬品情報と一口に言っても大きく分けて品質、有効性、安全性に関する情報に分類され、更に公表されている情報と公表されていない情報に分類されること、そして、これらの情報を必要とする複数のステークホルダーが存在している実態等について解説するとともに、これらステークホルダー間で必要とされる、あるいはアーカイブすべき医薬品情報の種類などが整理されているのか、ということが重要であることも意見として述べました。
以上を踏まえ、情報消失を止める一私案として、PMDAホームページで公表されている先発医薬品(長期収載品)の添付文書、インタビューフォーム、申請資料概要、審査報告書などの医薬品情報は先発医薬品の市場撤退後も、情報更新が停止した医薬品情報であることを適切に注意喚起しつつ、継続してPMDAホームページで公表する仕組みを構築すべきではないか、との提言を行いました。また、これによりジェネリック医薬品企業としても適切な情報提供活動を継続することができることも説明しました。
今後は医療関係者の皆様からの意見も踏まえつつ、現在、PMDAホームページなどでは公表されていない医薬品情報、例えば先発医薬品の『「使用上の注意」改訂のお知らせ』文書などの資料のアーカイブに関する必要性等についても検討すべきではないか、という点も追加で述べさせていただきました。
これに付随して、ジェネリック医薬品業界としても先発医薬品が市場から撤退後も医療上必要とされると思われるアーカイブすべき医薬品情報を調査・確認するためのアンケート調査をGE薬協くすり相談委員会と協働して実施していることも説明いたしました。
シンポジウムでの意見交換では、本テーマとは直接関係のない軟膏剤の配合変化や粉砕時の安定性など、ジェネリック医薬品企業自らがデータを取得し情報提供すべき事項に関する意見もありましたが、撤退する先発医薬品の医薬品情報について、服用されている患者さんに何らかの事象が起こった際に、再度基本に立ち返るためにもインタビューフォームの有効成分に関する毒性や物性などの非臨床データが必要なのではないか、といった指摘もいただきました。
今回のシンポジウムは、あくまでも本件に関する議論のスタート、あるいは切っ掛け作りであり、ステークホルダー間でアーカイブすべき医薬品情報を具体的に整理し、議論を進めて行く必要があると考えます。
【一般演題】
演題:ジェネリック医薬品の電子添文から考える医薬品情報 ~新記載要領対応で生じた情報~
演者:宮田 隆志、今田 隆太郎、大岩 由利恵、小島 五月、長竹 舞子、大野 公嗣(日本ジェネリック製薬協会 安全性委員会・電子添文検討部会)
GE薬協 安全性委員会では、ジェネリック医薬品(以下、GE)の電子化された添付文書(以下、添文)における情報充実に継続して取り組んでいます。GE添文の「16. 薬物動態」「17. 臨床成績」「18. 薬効薬理」(以下、16~18項)については、公表資料に基づき先発医薬品と同等の情報提供を行うことが求められていますが、公表情報のみでは先発医薬品の添文記載内容を十分に確認できない事例も存在しています。GE薬協 安全性委員会では、こうした実態や課題について継続的な調査・検討を行うとともに、日本医薬品情報学会総会・学術大会等を通じて情報発信を行っています。
今回、第28回日本医薬品情報学会総会・学術大会において、「ジェネリック医薬品の電子添文から考える医薬品情報 ~新記載要領対応で生じた情報~」と題してポスター発表を行いました。一般名称の頭文字が「カ」行の内用剤27品目を対象に、GE添文の16~18項の記載状況と先発医薬品の審査情報公開の関連性を調査し、その結果を報告いたしました。
調査の結果、GE添文の16~18項については全体の88.6%が先発医薬品と同一又は同等の記載であり、新記載要領下において概ね情報の整合性は確保されていることが確認されています。一方で、11.4%の項目については記載そのものが削除されており、依然として先発医薬品の添文に記載されている情報がGE添文へ反映できていない事例が存在することが明らかになりました。
また、先発医薬品の承認年代別に分析したところ、承認年代が新しい品目ほど同一記載の割合が高く、2000年以降に承認された品目では項目削除が著しく少ない傾向が認められています。一方、承認年代の古い品目では項目削除が比較的多く確認されています。これは、近年に承認された医薬品では審査報告書や申請資料概要などの公開情報が充実している一方で、公開情報が充実する以前に承認された医薬品では、審査報告書や申請資料概要などが公表されておらず、添文記載の根拠となった情報を公表資料から確認できないことが一因ではないかと考えられます。
さらに、項目別にみると、「18.薬効薬理」では高い一致率が認められた一方、「17.臨床成績」では項目自体の削除事例が比較的多く認められています。薬効薬理については作用機序や非臨床試験結果など比較的標準化された情報が多く、公表資料から根拠を確認しやすいことが背景にあると考えられます。一方で、臨床成績は試験デザインや評価項目、解析結果など個々の試験に依存する要素が多く、標準化された情報が少ないことから、公表資料だけでは添文記載の根拠を十分に確認できない場合があることが示唆されています。
質疑応答では、さまざまな立場の参加者の皆さんと意見交換を行うことができました。「なぜ今回この品目群(一般名称「カ」行の内用剤)を対象として調査したのか」との質問をいただきました。これに対しては、継続的に実施している添文調査の一環として、網羅的な検討を行うことを目的としておりますが、品目数が多いことから、今回は対象範囲を限定した内容を発表したこと、また、今回の一般名称「カ」行の内用剤には、承認年代の古い品目から比較的新しい品目まで幅広く含まれていることから、今回の検討対象として選定したことを回答いたしました。
また、「薬効薬理では高い一致率を示しているにもかかわらず、なぜ臨床成績では情報差異や項目削除が多いのか」との質問もありました。これに対しては、薬効薬理は日本薬局方の解説書等により比較的公開資料による裏付けが容易である一方、臨床成績は原著論文や試験報告書への依存度が高く、公表資料だけでは添文記載内容を十分に再現できない事例が存在することを回答いたしました。
さらに、「医薬品情報の維持という観点から、行政や他団体との連携はどう考えているのか」との質問もいただきました。これに対しては、今回明らかとなった課題はGE業界だけで解決できるものではなく、行政、医療関係者、製薬企業、学術団体など多くのステークホルダーが関係する課題であることを説明いたしました。特に先発医薬品の市場撤退・承認整理が進むなかで、医薬品適正使用に必要な情報をどのように保存し、将来へ引き継いでいくかについては、業界横断的な議論が必要であるとの考えを述べました。
質疑応答や意見交換の中で、特に印象的だったのは、「過去の情報にも価値がある。企業として公開できる情報とできない情報があることは理解しているが、医薬品情報については国の財産として考え、将来へ引き継いでいける仕組みがあると良いのではないか」という意見もいただきました。この意見は、今回の調査結果が示した情報の維持に関する課題について改めて考える契機となったと思います。
今回の発表を通じて、GE添文と先発医薬品の添文情報の整合性は概ね確保されていることが確認できた一方で、承認年代の古い医薬品では先発医薬品に関する公開情報の不足や資料へのアクセス性の問題から、添文記載の根拠確認が難しくなっている実態も改めて確認することができました。また、会場での質疑応答からは、この課題に対する関心が医療関係者や製薬企業関係者において高いことを実感しました。
GE薬協 安全性委員会としては、今後もGE添文における情報提供の実態把握を継続するとともに、医療現場における理解促進に向けた情報発信を行っていきたいと考えています。