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フォーミュラリ

フォーミュラリ

 日本は少子高齢化や社会保障費の増大など様々な問題を抱えている。その中で医療費の効率化を進める手段の一つとしてジェネリック医薬品(以下GE)の使用促進が図られてきており、現在数量ベース目標のGEシェア80%は達成まであと一歩に近づいている。しかし、数量ベースのシェア計算では、最低薬価5.80円の錠剤と数十万円の注射薬も数量ベースでの評価では同カウントになってしまうため、医療費の効率化の評価という点では今後検討が必要と考えられる。GEのさらなる有効活用のためには医薬品の有効性・安全性と経済性から導き出される「フォーミュラリ」という方式は有効な手段の一つと考えられる。


 フォーミュラリの定義として厚生労働省は以下を示している。
 「医療機関等における標準的な薬剤選択の使用方針に基づく採用医薬品リストとその関連情報。医薬品の有効性や安全性、費用対効果などを踏まえて、院内の医師や薬剤師等で構成される委員会などで協議し、継続的にアップデートされる。」(2017年11月1日 中央社会保険医療協議会総会資料)つまり、フォーミュラリとは、医薬品の有効性・安全性など科学的根拠と経済性を総合的に評価して、医療機関や地域ごとに策定する医薬品の使用指針であり、良質で低価格な医薬品の使用指針に基づいて、標準薬物治療を推進することを目的としている、と言うこともできる。


 フォーミュラリ作成に際してはエビデンスを基にした医薬品の有効性・安全性評価が行われ、限られた種類の医薬品が使用されることから、フォーミュラリの運用管理においては、医薬品の使用実態調査や副作用モニタリング、類似販売名による過誤投与の対策がなされるようになり、医薬品リスク管理の向上にも貢献できる。フォーミュラリ導入のメリットに、患者に対して最も有効で経済的な医薬品の使用を目指す標準薬物治療の推進がある。GEを基準薬とすることで医療機関・地域での採用薬品数や医薬品の効率活用によって、医薬品購入費を削減できる。


 政府は、医療費適正化、公的医療保険制度の持続可能性維持の視点からフォーミュラリ導入を指向している。「経済財政運営と改革の基本方針」においては、2015年から2017年まで生活習慣病薬等の処方の在り方を検討する旨記載され、2017年11月1日 中医協総会では降圧薬などで標準的な薬剤選択の推進策として「フォーミュラリ」が提案された。ごく最近では、2020年度診療報酬改定に向けた検討項目に「フォーミュラリ等への対応」が明記されることとなった(2019年3月27日 中医協総会資料)。


 現在、フォーミュラリはACE阻害薬・ARB、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、HMG-CoA還元酵素阻害薬、ビスホスホネート系薬剤、α-グルコシダーゼ阻害薬などを中心に、医療機関、地域などで策定が進められていることが報告されているが、その他にも抗アレルギー用薬、Ca拮抗薬、抗真菌薬、G-CSF製剤、インフルエンザ治療薬まで策定を検討されているところもあるようである。それぞれ、第1選択薬、第2選択薬(薬剤によって第3選択薬まで)を選定し、GEのない先発医薬品は概ね第2選択以降となる場合が多い。


 フォーミュラリ導入の経済効果であるが、日本調剤グループの日本医薬総合研究所によると、同グループでプロトンポンプ阻害薬(PPI)にフォーミュラリを導入した際の経済効果は、GEの切替えに加え、年間40億円超の削減効果があるとしている(2018年8月26日、日本ジェネリック医薬品・バイオシミラ―学会)。参考としてプロトンポンプ阻害薬(PPI)の日本での市場構成割合を以下に示す。2018年4-6月時点でGE置換え可能市場におけるGE使用割合は数量ベースで70.3%であるが、PPI市場全体では38.2%と低い。全体の45.7%をGEのない先発医薬品が占有しており、金額ベースでは66.6%に及んでいる。

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※ Copyright © 2019 IQVIA. JPM 2018/4-6をもとに当協会集計 無断転載禁止
※「先発品」「PPI市場」は当協会定義にて集計
※ 金額割合は薬価ベースで計算している。


 フォーミュラリは、これまで一部の大学病院などで進められてきたが、これを地域へと波及させる「地域フォーミュラリ」も徐々に運用が始まってきており、 地域医療連携推進法人・日本海ヘルスケアネット(山形県)や、昭和大学病院(東京都品川区)などで進められているほか、協会けんぽ静岡支部が運用に向けて準備を進めている。


 フォーミュラリを地域に広げることで、地域での医療費削減効果や、保険薬局・医療機関の在庫負担軽減効果に加え、地域における治療の標準化も期待できる。地域の医療関係者がフォーミュラリの作成・運用・管理を行う地域フォーミュラリは、医療従事者自らが薬物治療の最適化と医療費適正化にも貢献できる仕組みともいえるのではないだろうか。かつてDPC病院が治療の標準化を進めていったように、フォーミュラリも地域包括ケアの推進と共に運用地域が増加し、地域での治療の標準化に貢献するだろうと考えられる。


(参考)
病院のフォーミュラリ策定状況
※平成28年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査(平成29年度調査)

<DPC対象病院・準備病院(n=113)>
策定済み 7.1%
策定予定 10.6%
<病院全体(n=321)>
策定済み 3.4%
策定予定 7.5%

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