2019 年 11 月 27 日、第 200 回臨時国会にて改正医薬品医療機器等法(以下、改正法と称す。)が可決・
成立しました。改正内容は多岐に渡りますが、安全対策関係で注目すべきは添付文書の電子化です。
医療用医薬品添付文書を取り巻く制度の変化
ご承知のように、医療用医薬品の添付文書は、医薬品医療機器法の規定に基づき、医薬品の適用を受ける患者さんの安全を確保し、適正使用を図るために、医師、歯科医師、薬剤師等の医療関係者の皆様に対して必要な情報を提供する目的で、医療用医薬品の製造販売業者が作成するものです。この添付文書の作成については、その記載要領が 1997 年に厚生労働省から通知されていますが、ここ 6、7 年で医療用医薬品の添付文書に関する制度は大きく変化しました。
全ては安全対策の強化が目的であり、2010 年 4 月に公表された「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)」が根底にあります。制度変遷の概略を述べますと、2014 年 11 月25 日に施行された改正医薬品医療機器等法(約 70 年間使用された薬事法の名称は消滅)で添付文書に関する国と企業の責任が明確化されると共に、添付文書の厚生労働省への届出制が導入されました。
一方、2008 年から 2013 年に実施されました厚生労働省科学研究での提言及びその後の検討に基づき、添付文書の記載要領改正案が作成され、当該改正案に関するパブリックコメントの意見を踏まえ、2017 年 6 月に約 20 年ぶりに医療用医薬品の添付文書記載要領が改正されました。
この添付文書の記載要領の改正により、ジェネリック医薬品の添付文書における使用上の注意・取扱い上の注意は原則、先発医薬品と同一の記載とすることとされ、また薬物動態、臨床成績、薬効薬理は原則、先発医薬品と同等の情報を記載することになりました。そして今回の改正法により、医療用医薬品の添付文書は電子的に提供することが原則化されました。
添付文書の電子化が何故、安全対策の強化に繋がるのか?
医薬品は、医薬品情報に基づき適正に使用されてはじめて本来の目的が達成されます。添付文書は医薬品の品質、有効性、安全性に関する最新の情報をコンパクトに纏めた、医薬品の適正使用に関する最も基本的な文書です。そのため、患者さんに適用される医薬品の製品に添付文書を同梱することで、医薬品を処方及び調剤する医療関係者の手元には確実に添付文書は届きます。その上で医療関係者は添付文書の内容を理解した上で処方及び調剤されることになります。今日時点の医薬品医療機器等法第 52条(2021 年 8 月以降は第 68 条の2)に記されているとおり、添付文書等記載事項は最新の知見に基づき記載されなければなりません。ご存じの通り医療用医薬品の使用上の注意は頻繁に改訂されますが、現行の紙媒体の添付文書は印刷物の宿命ですが、紙に印刷した瞬間からその情報の陳腐化が始まります。
そのため製品に同梱された時点では最新の情報であっても、製造販売業者が出荷判定を行い市場に流通している製品に同梱された添付文書の内容は必ずしも最新の情報ではないことはご理解頂けると思います。このパラドックスに対してこれまで製造販売を行う製薬企業は、添付文書「使用上の注意」の改訂内容を迅速にお伝えするために要点をまとめた「お知らせ文書」を作成し、MR、卸業者の MS による説明やお知らせ文書の郵送による情報伝達を行って参りました。しかしながら、既に最新の情報ではない同梱された添付文書が一定期間、市場で流通することから、情報伝達後に当該医薬品を新たに採用した医療機関には最新ではない医薬品情報が届くというジレンマが残ります。これを解消するため、業界は長らく常に最新の添付文書情報にアクセスすることが可能となる電子的な提供を原則化するよう、要望してきました。
改正法の概要とスケジュール
添付文書の電子化に係る改正法の概要ですが、①医療用医薬品については、注意事項等情報について、電子情報処理組織を使用する方法等により公表し、当該情報を入手するために必要な符号をその容器等に記載しなければならない、とされました(改正法第 52 条第1項及び第 68 条の2関係)。そして、②当該医薬品の製造販売業者は、購入者等に対し、注意事項等情報の提供を行うために必要な体制を整備しなければならない、とされております(改正法第 68 条の2の2関係)。なお、改正法においては、医療用医薬品の添付文書は電子化されること、つまり製品に添付されないことから、添付文書という名称は変更されます。上記の改正法についてそれぞれ要約すると、
①現在の添付文書に相当する情報は PMDA の該当するホームページに公表し、その情報にアクセスできる符号を製品の外箱などへ表示すること
②製造販売業者による注意事項等情報の提供を行うために必要な体制整備
添付文書の電子化は 2021 年 8 月 1 日より施行され、経過措置期間は 2 年となります。
これに先立ち、2020 年 11 月 6 日から 2020 年 12 月 10 日まで、関係する政省令を改正するためのパブリックコメント募集が行われました。
法施行規則(案)では、外箱などへ表示する符号は GS1 コードとすることが予定とされました。現在、医療用医薬品の製品に記載されているバーコードは商品コードのみの GS1 コードですが、既に製品の調剤包装単位(PTP やアンプル)、販売包装単位(個装箱)にて 100% 表示されています。この GS1 コードを読み取り、PMDA ホームページに掲載されている添付文書情報を表示するためのアプリは、日本製薬団体連合会(日薬連)で開発中です。現時点では、このアプリはスマートフォンやタブレットに標準インストールされていませんので、医療関係者へ当該アプリのインストールや情報へのアクセス方法の普及啓発活動を製薬業界としても推進していく必要があります。
なお、情報提供を行うために必要な体制ですが、
・一部の医薬品を初めて購入しようとする医薬関係者に対し、注意事項等情報を提供するために必要な体制
・一部の医薬品の注意事項等情報を変更した場合に、当該医薬品を取り扱う医薬関係者に対して、速やかに注意事項等情報を変更した旨を情報提供するために必要な体制を整備しなければならないことが政省令を改正するパブリックコメントで示されました。また、2018年 12 月 25 日開催の厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会での議論では、医薬品等の適正使用に資する最新の情報を速やかに医療現場へ提供するとともに、製品が納品されるたびに同じ添付文書が一施設に多数存在するといった課題を解決するため、電子的な方法による提供を基本とすることが適当であるとされました。また、製品への添付に代わる確実な情報提供の方法として、製造販売業者は医薬品の適正な使用のために必要な情報を提供する責務を負う者として、単に医薬関係者が注意事項等情報へアクセスするのを待つのではなく、医薬関係者が注意事項等情報へアクセスしやすいよう外箱などへの符号の記載に加え、注意事項等情報を提供する体制を整備することが規定されています。COVID-19 感染拡大により、最近は非接触による情報提供として電子媒体情報が重要視されていることから、今後は情勢に応じ、変化に対応することも必要になるものと考えます。
どのような体制を整備して、どのような情報提供を行わなければならないのか?
今後発出される法施行規則及び関連通知や今後行われる議論を待たなければ、正確な内容は現時点では不明である、というのが現状です。
なお、下記の様な点については、現時点で明確にはなっていません。
・初回購入先に対する情報提供のタイミングは?
・情報提供の媒体や方法は?
・改訂時の情報提供は、GVP 上の情報伝達で良いか?
・既存の GVP 体制と異なる体制を構築する必要があるのか?
・どのような手順を作成すれば良いのか?
・医療用医薬品における「添付文書」は、今後、何と呼べば良いのか?
最後に
今回は添付文書の電子化について、現時点で分かっている内容を中心に解説しました。今後、体制・手順の構築に必要な情報や、実際の運用に必要な情報が明らかになっていくと思われます。ある程度、情報が蓄積された段階で関係する委員会を対象にした説明会の開催や、こういった解説記事にてご紹介させて頂きたいと思います。
JGAニュースNo153からの転載です