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法律・制度

経済安全保障推進法について

経済安全保障推進法について

 世界中の経済活動を止めてしまった新型コロナウイルス感染症や、ロシアのウクライナ侵攻、新冷戦と呼ばれる米中貿易摩擦問題、為替レートの変動など、国際情勢が混迷を続ける中で、サプライチェーンが混乱し、企業活動における生産材料が不足する事態にもなり、暮らしにかかわる物価までが急騰してきています。

 各国の経済成長に格差があった時代、先進国の大手企業は効率化や、より利益のでる仕組みを追求しグローバル化をすすめてきました。効率化の名のもとに自国の産業は空洞化し、サプライチェーンは複雑化し、世界のどこかで供給が止まると、全体が影響を受けてしまう仕組みになってしまいました。

 これらは物資だけではなく、インフラや重要な先端技術(頭脳流出・知的財産侵害問題)などにもおよんでいて、自国を守るために国家間の経済活動の場で、これらを活用した駆け引きや、最後には経済での戦争のようなものが起こってしまう可能性が高く、国を挙げて今から対策や準備をしていかなければならない状況に追い込まれています。

 まさに、今、経済安全保障上の課題をないがしろにすれば、将来、私たちが安心して暮していく為の基盤が、危うい状況に追い込まれてしまいます。

経済安全保障推進法の概要
 以上のような問題意識のもとで、2022年5月11日に経済安全保障推進法は成立しました。この法律は、将来に向けたインフラ整備や先端技術の支援などは勿論ですが、資源輸入国である我が国の経済や国民生活に必要な「重要物質」を安定的に確保する制度を確立し、安心して暮せる体制を構築しようとするものです。
 具体的には以下の4つの柱(制度構築)からなっています。

・重要物質の安定的な供給確保に関する制度
・基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度
・先端的な重要技術の開発支援に関する制度
・特許出願の非公開に関する制度

 これらは段階的に2024年5月までに施行される予定となっていますが、輸入立国の我が国においては、先んじて、「重要物質の安定的な供給確保」が喫緊の課題であることから、政府の中に安全保障推進室を設けて、2022年8月1日より「サプライチェーンの強靭化と官民技術協力」のタイトルで議論され、2022年12月20日に具体的な物質が閣議決定されました。

 これにより、今回決定された重要物質は将来にむけた安定供給の為に、政府は常に監視し、必要な支援をすることになりますが、基本的には以下の四つの項目を満たす物質が選定されました。

・国民の生存に必要不可欠又は国民生活・経済活動が依拠している物質
・当該物質又はその原材料等を外部へ過度に依存するおそれがある物質
・外部からの行為により供給途絶の蓋然性がある物質
・上記の理由から安定供給確保措置の必要性のある物質
<参照>
〇特定重要物資の安定的な供給の確保に関する基本指針 令和4年9月30日 閣議決定 第3章 第1節 基本的な考え方
 https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/kihonshishin1.pdf

以上をふまえて、第一段階として具体的に閣議決定された「重要物質」は以下になります。

・抗菌性物質製剤
・肥料
・永久磁石
・工作機械及び産業用ロボット
・航空機の部品(航空機用原動機及び航空機の機体を構成するものに限る。)
・半導体素子及び集積回路
・蓄電池
・インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて電子計算機(入出力装置を含む。)を他人の情報処理の用に供するシステムに用いるプログラム
・可燃性天然ガス
・金属鉱産物
・船舶の部品(船舶用機関、航海用具及び推進器に限る。)
<参照>
〇令和四年政令第三百九十四号 
「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律施行令」

 それでは、このように指定された物質の今後の安定供給対策はどのようにとられていくのでしょうか。特定重要物質に関しての具体的な流れは下記の様にすすめられます。今回は重要物質の指定まで終わりましたので、具体的には3.からになります。(1.2.までは終了)

1.特定重要物資の安定供給確保に関する基本方針を策定
2.特定重要物資の指定(政令指定)
3.物質ごとに取り組み全体像を整理して安定供給確保取組方針を策定
4.民間事業による供給確保計画の策定と支援措置
5.特定の対策を講ずる必要がある特定重要物質と政府による取組等
6.特定重要物資等に係る環境の整備(公正取引委員会・関税定率法との関係)
7.その他
                                   
 上記のように、政府により特定重要物質に指定された場合には、その分野の担当大臣が物質や原材料までを含めた供給を確保するための方針(取組み)を策定します。それを受け入れた企業は、製造、備蓄などの安定供給確保計画を提出し、認定された場合は財政支援や金融支援を受けられることとなり、安定供給に向けた対応が図られることになります。
<参照>
〇経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)
 https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/index.html

特定重要物質として指定された抗菌性物質製剤の状況と取組方針について
 今回、医薬品の中で特定重要物質として抗菌性物質製剤が指定されました。医薬品においても原材料、原薬、添加物などを中心に調達効率を追求したことから、グローバルなサプライチェーンが広がっており、有事の際には供給がストップする可能性があります。

 今回、医療現場で感染症予防や治療の為に不可欠なβラクタム系抗菌薬(セファゾリン、セフメタゾール、アンピシリン・スルバクタム、タゾバクタム・ピペラシリン)が指定を受けました。
 これら製剤の出発物質や原薬などは、ほぼ100%が中国などの海外で製造されており、国内での製造や代替が困難であり、一時期、学会でも供給問題が取り上げられておりました。

 今後の取り組みとしては、2023年から国内で原薬の製造や備蓄設備の構築を行い2030年までには、海外からの供給が途絶えた場合でも安定供給が可能な体制を構築する事と定められました。なお、厚生労働省は2022年度の第二次補正予算で、β-ラクタム系抗菌薬の原材料・原薬の国産化のための支援費用として553億円を組み込みました。

<参考>
日本ジェネリック製薬協会Webサイト
リンクページ:内閣府(内閣府ホーム 内閣府の政策 経済安全保障)
https://www.jga.gr.jp/link.html

JGAニュースNo179からの転載です