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【Factに迫る!】『人的資本経営』(パート3)について

【Factに迫る!】『人的資本経営』(パート3)について

【Factに迫る!】『人的資本経営』(パート3)について
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参考:https://www.jga.gr.jp/policy.html

 

今夏、ウクライナ危機、円安等の影響によるエネルギー・食品価格などの消費者物価上昇を踏まえ、サイボウズのように特別手当を支給した企業もあります。しかし、多くの企業では、岸田政権の目玉施策であるにも関わらず、十分な賃上げを実現できていない状況が続いています。

今回は、『人材版伊藤レポート2.0』(図1)の中でも、赤字で示した『リスキル・学び直しのための取組~リスキルと処遇や報酬の連動~』と、それに関連する『キャリアディベロップメント・賃金』の2つの切り口にて紹介いたします。

 

(図1)著者作図 
引用:経済産業省 令和4年5月 人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~

 

①『リスキル・学び直しのための取組~リスキルと処遇や報酬の連動~』
当レポート(要素③)『リスキル・学び直しのための取組』では、経営環境の急速な変化に対応するためには、社員のリスキルを促す必要があります。また、社員が将来を見据えて自律的なキャリアを形成できるよう、学び直しを積極的に支援することが重要である、と経営層に促しています。

「リスキルと処遇や報酬の連動」として、経営層は組織に不足するスキル・専門性の獲得を社員に促すに当たって、学ぶことや、失敗に終わったとしても「学び挑戦する」姿勢そのものを称える企業文化の醸成の観点からも、その成果に応じ、キャリアプランや報酬等の処遇に反映できるように、制度の見直しも含めて検討します。
その際、組織のニーズのみに限定されない社員の自主的な学び直しに配慮することを経営層に求めています。

「市場価値を意識した、リスキル後に期待される報酬水準の明確化」の工夫として、
現職で責任を果たしながらリスキルを行う社員の負担に鑑み、リスキル後に期待される報酬水準を可能な限り明確にし、リスキルを後押しします。
その際、他社や市場で期待される報酬水準を参照し、リスキル後の報酬が十分に魅力的であるか、検証することを経営層に強く求めています。

 

②『キャリアディベロップメント・賃金』
社会・経済の環境変化が賃金にどのような影響を与えるのか?
一橋大学大学院 小野浩教授は日本の賃金体系について「年功賃金制度とラジアー理論」で理論的考察をしています。(図2)

横軸は年齢・勤続年数、縦軸は賃金・生産性を示しています。

 

(図2)著者作図
引用:日本労働研究会雑誌No.723.4-18/October 2020、日経ヴェリタス744号、751号

 

Aの賃金カーブ(青)は、従来の日本的雇用慣行の柱である年功賃金制度に代表される、いわゆる企業内訓練等、特定の企業でしか成果を上げないスキルによる「企業特殊的人的資本」による年功賃金(生産性)を示しています。

一方、Bの賃金カーブ(赤)は、「一般的人的資本」つまり、大学等で学んだ知識・能力、MBA等の資格で、市場性・汎用性が高く、どの企業でも生産性を高めることが可能な、能力スキルによる市場賃金(生産性)を示しています。

曲線Aの場合、労働者は企業内特殊訓練を集中的に受けるが、若いうちは生産性を下回る賃金を受け取り、中高年になると生産性を上回る賃金を受け取ります。すなわち、「若年労働者は生産性以下の報酬を、中高年労働者は生産性以上の報酬を得ている」ことになります。

しかし、昨今の高齢化、グローバル化、技術革新の影響により、曲線Aのカーブはフラット化する傾向にあります。
いわゆる、企業内人口ピラミッドの高齢化による下押し圧力による曲線A後半カーブが下降する一方、新卒者も含め、特定領域のスペシャル人材(例えばデジタル人材など)を雇用する、日立やKDDIのような高賃金スキルである「ジョブ型雇用」の導入に伴い、曲線Aの前半カーブ賃金は上昇傾向にあります。

昭和女子大学 八代尚宏特命教授は日本型雇用システム改革の一案として「40歳でメンバーシップ型雇用に区切りをつけ、それ以降は職務を明確にしたジョブ型で会社と再契約する形」を提案されています。専門性を高めやすくなり、個人の自律的なキャリア形成を広げることができます。

これからのビジネスパーソンはリスキリングにより、日本的ジョブ型で専門性を高め、個人の自律的なキャリアを形成し、「一般的人的資本」を高めることで、Bの市場賃金(生産性)カーブを押し上げることが可能かもしれません。

賃金を含めたキャリアディベロップメントを鑑み、個々のビジネスパーソンが自分らしく、ウェルビーイングに戦略的な未来の価値を創造し、市場価値をアップすることが肝要です。

 

③まとめ
どのような能力を身に付ければどんな職に就くことができ、どのくらいの収入が得られるか、といった情報がわからなければ、個人は本気でリスキリングしようとは思いません。
すなわち、職業情報の「見える化」が大切です。

米国では地域ごと、職業ごとに必要なスキルや年収などの情報を検索できる公的サイトがあります。
さらに米国のサイトでは必要なスキルを学ぶために地域にどんな講座があるかも調べることができますが、日本ではそのような環境がまだ十分に整備されていません。

日本のキャリア形成と労働市場の流動性はまさに発展途上にあります。

キャリアディベロップメントを含めた人的資本経営は、VUCA時代の企業・個人(ビジネスパーソン)にとって、大切なマネジメントです。
企業にとっては人的資本経営による市場での生き残り、ビジネスパーソンにとってはより強みを活かしたライフサイクルマネジメントです。                                    

医薬品・医療機器企業はこれから、人的資本経営を実践することで、持続可能(SDGs)な国民皆保険を含めた社会保険制度維持に貢献していくべきと考えます。

 

2022年8月
文責:ニプロ株式会社 学術情報部 山口博人(日本FP協会会員AFP)

参考情報
◯経済産業省 令和4年5月 人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf
◯『人的資本経営(パート2)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220801.html
◯『人的資本経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220701.html
◯『ウェルビーイング経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220601.html
◯『VUCA時代経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220510.html
◯『パーパス経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220325.html
◯『ESG経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220120.html