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【Factに迫る!】『サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)』について

【Factに迫る!】『サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)』について
目次

【Factに迫る!】『サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)』について
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一橋大学 伊藤邦雄教授は、既寄稿コラム『人的資本経営』(2022.7.1)にて紹介した「人材版伊藤レポート2.0」に次いで、2022年8月30日に『伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)』「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)報告書」を発表しています。

今回は、その『サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)』と、人的資本に関連して『キャリアデベロップメント・プロティアンキャリア』について紹介いたします。

 

(図1)著者作図
引用:経済産業省 伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)

①『サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)』

「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」とは社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを「同期化」させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)を指します。

この社会のサステナビリティと企業のサステナビリティの同期化とは、企業が社会の持続可能性に資する長期的な価値提供を行うことに通じて、社会の持続可能性の向上を図るとともに、自社の長期的かつ、持続的に成長原資を生み出す(稼ぐ力)の向上と更なる価値創出へとつなげていくことを意味します。

VUCA時代、複雑化する事業環境の中で持続的な競争優位を確保していくため、SX実現に向けた強靱な価値創造ストーリーの協創と、その実装が期待されています。

SXの実現に向けては、
●「SXに対する経営陣の意識改革」として、CEOをはじめとする経営陣の意識改革が不可欠としています。
●また、「SX実践のために重要な人的資本への投資、人材戦略の策定実行」として、社内体制(CEO直属の横断的なサステナビリティ委員会の設置など)の整備、社員一人一人にSX実践の理念やビジョンの浸透を求めています。

●そして、「投資家等への情報開示・対話促進」として、投資家等との建設的・実質的な対話を通じて、長期戦略等を共有・ブラッシュアップしていくことが重要で、人材戦略を含めた価値創造ストーリーの経営者からの説明が期待されています。

この「SX版伊藤レポート」で伊藤教授は、人的資源(リソース)は減るだけなのに対して、人的資本(キャピタル)は資本なので伸び縮みする。よって人的資本にエネルギーを投入することで人的資本の価値を創造し、サステナビリティ経営と掛け合わせることで、企業価値を創造できる可能性が高まるとしています。

そして、人的資本を投入した「サステナビリティ人材」はESG統合型人材で、
「競争力×共創力=ROESGⓇ人材*」であり、そのような人材を育成、確保し続けることができる企業がSX企業としてサステナブルな長期経営の可能性が高まるとコメントしています。

*「ROESGⓇ」は一橋大学 伊藤邦雄教授が開発した経営指標で同氏の商標です

②『キャリアデベロップメント、プロティアン・キャリア』

人的資本の重要性が高まる中、キャリア開発として「プロティアン・キャリア」が注目されています。既寄稿コラム『人的資本パート2』(2022.8.1)の「キャリアデベロップメント、プランド・ハップンスタンス理論」に次いで、「プロティアン・キャリア」を紹介いたします。(図2)

 

(図2)著者作図
引用:キャリア・ワークアウト 田中研之輔[著] 日経BP、日本経済新聞社2021年3月28日


   
「プロティアン・キャリア」はもともと、米ボストン大学ダグラス・ホール教授が提唱した理論です。この理論を法政大学 田中研之輔教授がバージョンアップし、現代版「プロティアン・キャリア」として深化させてきました。

プロティアンという言葉の語源はギリシャ神話にでてくる、思いのままに姿を変える神・プロテウスにあります。プロテウスは火にも、水にも、時には獣にもなります。
環境の変化に応じて変幻自在に姿を変えます。

プロティアン・キャリアとは自分の軸を持ちながら、環境や社会の変化に適応し、自分らしいキャリアを形成していくことです。
この形成に欠かせない2つの要素が、「アイデンティティ」(自分の軸)と「アダプタビリティ」(変化適応力)です。

「アイデンティティ」とは「自分とは何者であるか」ということです。仕事の場面では、「ビジネスパーソンとしての自分らしさとは何か」を意味します。

「アダプタビリティ」は組織や環境、社会の変化に適応する力のことで、外部環境の変化に応じて、自分自身をアップデートし、自分らしいキャリアを築こうとする意欲のことです。

図2では伝統的キャリアとプロティアン・キャリアを比較しています。
「伝統的キャリア」は昇進や昇格により、収入や地位、権力などが、右肩上がりに上昇・増幅していくモデルです。キャリア開発の視点から言うと「組織内キャリア」とも言い換えることができます。組織にキャリアを預ける働き方で、キャリアのオーナー(所有者)は組織です。

そして、組織に所属する個人は、組織の目標にコミットして成果を上げていくことで昇進や昇格を果たし、組織やメンバーから尊重されていることを、ビジネスパーソンとしてのよりどころにして、組織内での生き残りを目指して社内の変化に対応していきます。

一方、「プロティアン・キャリア」はキャリアを築くのは組織ではなく「個人」です。
キャリア開発の視点から言うと「自律型キャリア」と言い換えることができます。会社員であっても会社に依存せず、自分自身の成長を追求する働き方で、キャリアのオーナーは組織ではなく「個人」です。

また、キャリアに社会的な成功や失敗はなく、仕事の報酬は自分の目標が達成されたときに得る「心理的成功」だと考えます。自分を尊敬できるかという「自尊心」を働くよりどころとし、所属する組織だけでなく「市場」で求められる人材であるために、社会の変化に適応していきます。

◯プロティアン・キャリアでいう「キャリア資本(キャピタル)」について概説します。(図3)
「キャリア資本」は生涯を通して学び続けることで、たまっていく知識やスキル、ネットワーク、資産などの総体です。
そして、このキャリア資本は「ビジネス資本」「社会関係資本」「経済資本」の3つから構成されています。

 

(図3)著者作図
引用:キャリア・ワークアウト 田中研之輔[著] 日経BP、日本経済新聞社2021年3月28日

 

●「ビジネス資本」はキャリア形成を通じて得られる知識やスキル、立ち居振る舞いなど、その人の身体に刻まれたものです。さらに細分化すると、「ビジネスリテラシー」「ビジネスアダプタビリティ」「ビジネスプロダクティビティ」という3つの資本です。

「ビジネスリテラシー」は、ビジネスの知識や理解力、論理的思考力のことです。
「ビジネスアダプタビリティ」は、社会や環境の変化に関心を持ち、変化に対応する適応力、
「ビジネスプロダクティビティ」は、ビジネスシーンでの問題から背を向けず、解決のために行動を起こす遂行力のことです。

特に大事なのは、変化に対応し、行動・遂行できるキャリアとしての「ビジネスプロダクティビティ」です。

●「社会関係資本」は個人同士のつながりからなる社会的なネットワークです。
勤めている会社だけでなく、社外、地域、趣味のコミュニティなどの「組織外活動」によって生まれるネットワークも社会関係資本に含まれます。また、友人などとの関係性によって得られる「心理的幸福」も社会関係資本となります。

●「経済資本」は、金銭、資産、財産、株式、不動産などの経済的な資源です。


◯プロティアン・キャリアはこの3つの『キャリア資本』である、「ビジネス資本」「社会関係資本」「経済資本」をバランスよく蓄積していくことで形成されます。(図4)

 

(図4)著者作図
引用:キャリア・ワークアウト 田中研之輔[著] 日経BP、日本経済新聞社2021年3月28日

 

プロティアン・キャリアを形成するためには、スキルを高めながら「キャリア資本」を蓄積し、「チャレンジ」を繰り返していくことが大切です。

「キャリア資本」は、同じ仕事を日々繰り返しているだけでは、微増にとどまり、働く環境や生活環境を変えることで増加します。

変化を起こして新たな資本を獲得していけば増加します。

キャリア資本も時間の経過とともに「蓄積」していくものだと捉えると、1年先、3年先、5年先を見据えて、「どんなキャリア資本を蓄積していくのか」を「戦略的」に考えることが重要です。

既寄稿コラム『VUCA時代経営』(2022.5.10)の「戦略的に未来をマネジメントする方法」にあるように、時間軸を意識して、実現したい未来から逆算、バックキャスティングして、戦略的にキャリアを形成していくことが大切です。

また、「ビジネス資本」と「社会関係資本」のかけ算で「経済資本」がたまります。

田中教授曰く、変わらないままでは、我々は変化に取り残されてしまいます。変化に対応できる「プロティアン人材」に先天的要素はいらず、一人一人が、人生の経営者となって戦略を練り、日々実践していくことが大切であると述べています。
これは、「個人のウェルビーイング」にもつながります。

まさに、「プロティアン人材」は「サステナビリティ人材」と親和性が強く、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」の根幹にあるものと言えます。

③最後に

2023年1月7日にエーザイ/米バイオジェンが開発したアルツハイマー病(AD)治療薬レカネマブが米FDAに迅速承認されました。今後の動向をもう少し注意深く見守らなければなりませんが、世界で多くの人が苦しんでいるADをコントロールすることが実現できれば、その社会的価値は大きいものであると考えます。

「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」は医薬品企業にとっても、企業価値向上につなげるための大変重要な概念です。
医薬品・医療機器企業はこれから、SXにより自社を変革「トランスフォーメーション」し、持続可能(SDGs)な国民皆保険を含めた社会保険制度維持に貢献していくべきと考えます。

 

2023年1月
文責:ニプロ株式会社 学術情報部 山口博人(日本FP協会会員AFP)

参考情報
◯経済産業省 伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)
https://www.meti.go.jp/press/2022/08/20220831004/20220831004-a.pdf
◯『インパクト加重会計』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230105.html
◯『KPI経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221201.html
◯『価値創造経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221101.html
◯『ムーンショット経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221003.html
◯『人的資本経営(パート3)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220901.html
◯『人的資本経営(パート2)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220801.html
◯『人的資本経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220701.html
◯『ウェルビーイング経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220601.html
◯『VUCA時代経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220510.html
◯『パーパス経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220325.html
◯『ESG経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220120.html