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【Factに迫る!】『ウェルビーイング・マーケティング』について

【Factに迫る!】『ウェルビーイング・マーケティング』について
目次

【Factに迫る!】『ウェルビーイング・マーケティング』について
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FACTに迫る!ウェルビーイング・マーケティング~マーケティング進化論と「幸福度」~ - YouTube

 

「やりがいを感じていて視野が広く、個性的で利他的な人は幸せ」であることが、慶応大学 前野隆司教授のウェルビーイング研究で明らかになっています。

このウェルビーイング研究の進展とマーケティングの進化による共創が注目されています。
今回、『ウェルビーイング・マーケティング』と、これに関連して『キャリアデベロップメント・マーケティング人材』について紹介いたします。

 

(図1)著者作図
引用:Kawii経営戦略-幸福学×心理学×脳科学で市場を創造する-高木健一[著]小巻亜矢[著] 日経BP、日経ヴェリタス第769号12月4日

①『ウェルビーイング・マーケティング』(図1)

マーケティングの大家、フィリップ・コトラー教授により、マーケティングはこれまで、製品中心(マーケティング1.0)、顧客中心(マーケティング2.0)、価値・人間中心(マーケティング3.0)、Moving to Digital(マーケティング4.0)、そして、Technology for Humanity(マーケティング5.0)へと進化してきました。

これらは、丁度マズローの欲求5段階説、ないしは6段階説ともリンクしています。
低次の欲求である生理的欲求から徐々に、安全、所属、承認、自己実現欲求、そして自己超越欲求へと、世の中の消費に対する成熟度、およびテクノロジーの進化が高まるのと呼応して、より高次の欲求に応えるようにマーケティングは進化してきています。

それと同時に、マーケティングや経営に関するコンセプトとしてカスタマーサクセス、データドリブン、パーパス経営、D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)、サステナビリティなどが生み出されてきました。

これらのコンセプトは大きく2つのことを意味します。
1つ目はカスタマーサクセスやLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)、NPS(Net Promoter Score:顧客推奨度、顧客ロイヤリティを測る指標)など「顧客との長期的な関係性」であり、2つ目は、パーパス経営やサステナビリティなどの「世界観・価値観」になります。

その意味での「幸福度」は、幸福を媒介にして「顧客との長期的な関係性」を築くことです。
同時に、消費者からすると、「幸福度を掲げる企業」は、幸福という「世界観・価値観」を提示する存在になります。

これらの視点から、「幸福」を基軸としたウェルビーイング・マーケティングは「新時代のマーケティング・コンセプト」といえます。
実際、食品・化粧品、テクノロジー、自動車、製薬など多岐にわたる業種の先進企業が、幸せ、ウェルビーイング、ウェルネスといったキーワードをパーパス(存在意義)や経営理念、経営戦略として標榜し始めています。

そして、このウェルビーイングに基づいた、パーパス・ドリブンな「ウェルビーイング・マーケティング」はサステナブルな長期経営の可能性を高めると考えられています。

②『キャリアデベロップメント、マーケティング人材』

人的資本の重要性が高まる中、キャリア開発として「マーケティング人材」が注目されています。前寄稿コラム『サステナビリティ・トランスフォーメッション(SX)』の「キャリアデベロップメント、プロティアン・キャリア」に次いで、「マーケティング人材」を紹介いたします。(図2)

 

(図2)著者作図
引用: マーケティング(第2版)恩蔵直人[著]日経BP、企業と人材 2022年1月号

 

マーケティングの本質の理解を助けるために、「製品コンセプト」「販売コンセプト」「マーケティング・コンセプト」の3つのビジネス・コンセプトを比較してみます。

●「製品コンセプト」は、優れた製品の提供を追求しようとする理念です。製品の改良に重点を置き、企業内に職人気質志向が強くなり、視野が狭くなる傾向になります。このコンセプトが強くなりすぎると、目先の製品に注意が向けられ、顧客のニーズの本質が忘れられがちになってしまいます。

●「販売コンセプト」は、顧客に自社製品を購入してもらうために、売り込みとプロモーション努力に頼ろうとする理念です。このコンセプトが強くなりすぎると、販売数字にのみ意識が注がれ、顧客との長期的な関係を構築しようとする努力が軽視されます。そして、顧客満足への配慮がおろそかになりやすく、長期的な成果には結びつきにくくなります。

●「マーケティング・コンセプト」は、標的市場の顧客ニーズを探り、そうしたニーズを実現できる製品を提供し続けようとする理念です。マーケティングの理想は、販売活動が不要になるところまで顧客を知り尽くすことです。経営学者のピーター・ドラッガーは、「マーケティングのの目的は、販売を不要にすることだ」と述べています。顧客ニーズに合致した製品であれば、販売に走り回らなくても、その製品は自ら売れていくからです。

マーケティング・コンセプトと他のコンセプトと大きく異なる点は、「外から内へ(マーケットイン)」の視点に立っていることです。組織の外である顧客ニーズを起点としており、あらゆるビジネス活動が市場の正確な把握と顧客満足の実現に向けられます。

また、短期的なオペレーションというよりも長期的なビジネス効果を追求するため、戦術的志向よりも戦略的志向が求められます。
マーケティング・コンセプトの問題点としては、組織内への浸透に時間を要することです。

◎『組織全体でマーケティング発想を有する』(図3)

組織におけるマーケティングの理想型は、優れたマーケティング部門を有することではありません。
ある特定部門がマーケティングの重要性を認識し、積極的にマーケティングを実践していても、組織全体がマーケティング発想を有していなければ、顧客からの持続的な支持は得られません。

組織のマーケティング力とは、最も高いレベルの部門で規定されるのではなく、最も低いレベルの部門で規定されます。
小さな部門、さらには一人の社員の心ない言動によって、当該組織が有するブランド・イメージや顧客満足は失われてしまうからです。

一人ひとりの社員(ビジネスパーソン)が、顧客ニーズを中心に考え、顧客満足を重視するマーケティング発想を有する必要があります。

(図3)では、生産、財務、人事などの機能と比較した際の、組織におけるマーケティングの位置づけを5つの段階に分けて整理しています。

 

(図3)著者作図
引用:マーケティング(第2版)恩蔵直人[著]日経BP、企業と人材 2022年1月号

 

第一に、マーケティングの重要性が相対的に低いままにとどまっている段階(a)があります。次に、マーケティングが他の機能と同じように重視されている段階(b)があります。マーケティングは軽視ができないが、だからといって取り立てて重視する必要もない。我が国における多くの企業はこの段階に位置しています。

続いて、マーケティングの重要性が高まり、他の機能よりも重要になっている段階(c)があります。競争が激しくなり、顧客の要求水準が高まると、マーケティングを軽視した経営はできなくなります。

さらに進むと、企業においてマーケティングが中心的な働きをする段階(d)になります。厳しい環境が展開されている食品業界や日用雑貨業界などでは、マーケティングを中核としてビジネス展開している企業が多くあります。

理想的なのは、組織全体がマーケティング発想を有している段階(e)です。

マーケティングは特定部門の専有ではなく、組織全体の理念となっている。こうした組織における製造部門や財務部門では、自らの機能を遂行するとともに、組織全体としてのマーケティングを志向する発想が貫かれています。
ネスレ、P&G、アップル、ヒューレット・パッカードなどは、この段階に位置しており、理想的なマーケティング・カンパニーとなっています。

このような組織を創り上げるためには、トップダウンによって組織編成を実施するだけでなく、社内の教育制度として「マーケティング人材」を戦略的に育成していくことで、各階層にマーケティングの理解の輪を広げる取組が必要になります。

マーケティングは、market(市場)にing(進行形)で表現されるように、変化する市場や社会に新たな価値を生み出すために進化しています。
VUCA時代の予測困難で変化が激しい、今こそ、世の中に新しい価値を創造するチャンスであり、マーケティング人材が求められている時です。

また、マーケティング人材の育成が、中長期的には企業の競争優位性の基盤となり、サステナブルな経営、さらには、社会に変革をもたらす活力となります。

前出のコトラー教授は、マーケティングを「人をより良き方向へ導く学問」とし、「人々をより良き社会へ向かわせるもの」と定義しています。
また、「社会問題を解決するために人を動かすこと」、しかも、「その行動自体が社会全般をよくすること」と社会課題の解決をマーケティングの使命として掲げています。

そして、民主主義の価値を高め、人類の幸福とウェルビーイングを実現するために「公共の利益(Common Good)」をいかにとらえるべきか、とマーケティング研究を進めています。

冒頭の「やりがいを感じていて視野が広く、個性的で利他的な人は幸せ」(ウェルビーイング)であることの裏返し、いわゆる顧客目線で言うと、顧客が「やりがいを感じ、視野が広く、個性的で利他的になること」を後押しするような製品やサービスを設計することが大切です。これにはマーケティング発想、創造性が必要になります。

マーケティングにはエンターテイメントの側面もあります。
この側面をも活かして、先のような顧客目線の製品・サービスによって顧客の共感を得られれば、自然に市場(マーケット)は動きます。
ウェルビーイングな顧客価値を追い求める「マーケティング人材の育成」は「顧客の問題を解決」し、さらに「社会課題を解決する」可能性が高まります。

まさに、「マーケティング人材」は前寄稿「プロティアン人材」とも強く連関し、これからのビジネスパーソンにとってサステナブルなウェルビーイングにつながるものと言えます。

 

③最後に

「ウェルビーイング・マーケティング」は医薬品企業にとっても、企業価値向上につなげるための大変重要な概念です。
医薬品・医療機器企業はこれから、ウェルビーイング・マーケティングにより自社を「トランスフォーメーション」し、持続可能(SDGs)な国民皆保険を含めた社会保険制度維持に貢献していくべきと考えます。

 

2023年2月
文責:ニプロ株式会社 学術情報部 山口博人(日本FP協会会員AFP)

参考情報
◯『サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230201.html
◯『インパクト加重会計』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230105.html
◯『KPI経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221201.html
◯『価値創造経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221101.html
◯『ムーンショット経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221003.html
◯『人的資本経営(パート3)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220901.html
◯『人的資本経営(パート2)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220801.html
◯『人的資本経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220701.html
◯『ウェルビーイング経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220601.html
◯『VUCA時代経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220510.html
◯『パーパス経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220325.html
◯『ESG経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220120.html