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【Factに迫る!】『Society 5.0』について

【Factに迫る!】『Society 5.0』について
目次

【Factに迫る!】『Society 5.0』について
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FACTに迫る!「Society 5.0」について—ウェルビーイング・利他的— - YouTube

 

「Society 5.0」をご存知でしょうか。
Society 5.0とは、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)とされています。

今回、『Society 5.0』と、これに関連して『ウェルビーイング・利他的』について紹介いたします。

 

①『Society 5.0』

「Society 5.0」は、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画(2016年)において我が国が目指すべき新たな未来社会の姿として初めて提唱されました。

この第5期科学技術基本計画において、「経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」としてSociety 5.0が定義されました。

さらに第6期科学技術基本計画(2021年)において、「持続可能と強靱性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」としてSociety 5.0が再定義されました。(図2)

 

(図2)著者作図
引用: 内閣府Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ

 

この第6期科学技術基本計画において、「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」が総合科学技術・イノベーション会議から発信されています。

このパッケージにより教育現場では、「一人ひとりの多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」としてSociety 5.0の実現を目指して、「主体的・対話的で深い学び」による資質・能力の育成を図り、「持続可能な社会の創り手」の育成を目指している状況にあります。

子供達が自由に発想し、子供たちによる主体的な学びを支える主体を多様化し、学校だけでなく地域や保護者、企業、行政など社会全体と連携のもとに、社会全体で教育・人材育成政策を推進する見取り図を示しています。

この政策の3本柱として下記を提唱しています。

<政策1>子供の特性を重視した「時間」と「空間」の多様化
これはICTも活用し、個別最適な学びと協働的な学びを一体的に構築する教育DXを含みます。

<政策2>探求・STEAM教育を社会全体で支えるエコシステムの確立
分野横断的なSTEAM(Science、Technology、Engineering、Arts、Mathematics)教育として
探求・STEAMの学びが実現できるよう、学校だけでなく、社会全体で子供たちの学びを支えるエコシステムを確立する。

<政策3>文理分断からの脱却・理数系の学びに関するジェンダーギャップの解消
男女問わず、高校までの理数は世界トップレベルであるにもかかわらず、「女子は理系に向いていない」などの根拠のないバイアスを解消することなどを進めていく。

これらの政策を、「一人ひとりの多様な幸せと課題への挑戦を実現する教育・人材育成」として、時に、アジャイルにトライ&エラーで進めていくとしています。

そして、優れた能力がある物を伸ばせば、どんな個人間・地域間格差を広げても良いということでは決してなく、「多様性」「公正(フェアネス)や個人の尊厳」「多様な幸せ(well-being)」の価値が、Society 5.0の中核であることを踏まえた教育・人材育成政策を示しています。

 

②『ウェルビーイング・利他的』

「ウェルビーイング」について、既寄稿コラム『ウェルビーイング経営』(2022.6.1)『インパクト加重会計』(2023.1.5)『ウェルビーイング・マーケティング』(2023.3.1)等で紹介していますが、今回読者のリクエストにより「利他的」について少々深掘りして紹介いたします。(図3)

 

(図3)著者作図
引用:日経ヴェリタス768号 2022年11月27日号、769号 2022年12月4日号 、日本経済新聞2023年1月9日朝刊

 

慶応大学 前野隆司教授はウェルビーイングの基礎として「地位財」と「非地位財」について述べています。
「地位財」は他人と比較できる財、(カネ、モノ、地位)、「非地位財」は他人と比較できない財、になります。

「地位財」による幸福感は長続きしない傾向があると言われています。これは慣れの効果や、より上を目指す効果によると考えられています。

一方、「非地位財」は幸福感が長続きする財です。こちらは精神的、身体的、社会的に良好な状態(ウェルビーイング)が影響すると言われています。

精神的に良好な状態として①「やってみよう因子」②「ありがとう因子」③「なんとかなる因子」④「ありのままの因子」があります。
この②の「ありがとう因子」は、他者に感謝する人は幸せです。また、利他的で親切な人や多様な友人を持つ人は幸せです。

この「利他的な人は幸せ」という研究について紹介いたします。
米アリゾナ州立大キャサリン・ネルソン・コッフィ准教授らの実験によれば、「普段以上に自分に親切な行為」を1日3つして報告することを4週間続けたグループは、その後の幸福感が高まらず、白血球遺伝子の発現(身体的炎症反応)が若干増え、ストレス状態になっていました。

一方、「他者(家族でもよい)に親切な行為」を1日3つして報告することを4週間続けたグループは、幸福感が高くなり、身体的炎症反応が減りました。人を助けたおかげで自分が助かったのです。
他者の幸福も視野に入れることが大切であることがわかります。

これは「情けは人の為ならず」が科学的に証明されていると言えます。

また、その他の研究でも、親切、思いやり、利他的行動など、他人のために何かすると、精神を安定させる神経伝達物質のセロトニンや「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンが分泌されることが知られています。
その結果、幸福感に満たされるのです。
すなわち、利他的行動は個人にも社会のためにも有効な行動と言えます。

◯前野隆司教授の「ウェルビーイング経営」では、社会モデルが経済成長第一の世界からウェルビーイング第一の世界へパラダイムシフトしていくことから、働く人の意識も企業の成長第一から従業員・顧客のウェルビーイング第一にシフトしていくとされています。(図4)

 

(図4)著者作図
引用:日経ヴェリタス768号 2022年11月27日号、769号 2022年12月4日号、
日本経済新聞2022年12月18日

 

(図4)の右図にあるように、個々人は協力的・相互依存的であり、コミュニティーの構造はフラットなネットワーク型で、リーダーシップは調和的リーダーシップになります。
リーダーは謙虚で優しく「利他的」なことがよしとされ、人々は想いによりつながる。多様、冗長、無駄が重視され、目の前の目的に囚われすぎず、多様な満足感があることが認識されます。

これらのことはダイバーシティ&インクルージョンにもつながりますし、既寄稿コラム『KPI経営』(2022.12.1)の「当事者研究(多様性のマネジメント改革)」-謙虚なリーダーシップが社員の創造性を促進-にも強く関連します。

この利他的について、マーケティングのプロであるUSJ経営再建の立役者、森岡毅 刀代表取締役CEOは「顧客の幸せは何か」にフォーカスすると、他者への思いやり(利他的)が自信のモチベーションになる日本人だからこそ、顧客を喜ばせることに愚直に追求することに向いているとしています。
そして、この日本人の利他的な強みを活かして、「マーケティングで日本を元気に」と活動しています。

この利他的なリーダーシップは、個々のウェルビーイングにつながり、前寄稿『ウェルビーイング・マーケティング』の「マーケティング人材」とも連関し、顧客の問題を解決し、「社会課題を解決する」これからのビジネスパーソンにとっても必要なスキルと言えます。

そして、このような利他的な社会課題を解決する取組が、「Society 5.0」で目指す未来社会像、
「一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」に近づく可能性が高まります。

③最後に

「Society 5.0」は医薬品企業にとっても、企業価値向上につなげるための大変重要な概念です。
医薬品・医療機器企業はこれから、Society 5.0を鑑み、自社を「トランスフォーメーション」し、持続可能(SDGs)な国民皆保険を含めた社会保険制度維持に貢献していくべきと考えます。

2023年3月
文責:ニプロ株式会社 学術情報部 山口博人(日本FP協会会員AFP)

参考情報
◯内閣府Society 5.0
https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/
◯内閣府Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kyouikujinzai/saishu_print.pdf
◯『ウェルビーイング・マーケティング』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230301.html
◯『サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230201.html
◯『インパクト加重会計』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230105.html
◯『KPI経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221201.html
◯『価値創造経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221101.html
◯『ムーンショット経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221003.html
◯『人的資本経営(パート3)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220901.html
◯『人的資本経営(パート2)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220801.html
◯『人的資本経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220701.html
◯『ウェルビーイング経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220601.html
◯『VUCA時代経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220510.html
◯『パーパス経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220325.html
◯『ESG経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220120.html