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GE薬協コラム

【Factに迫る!】『PBR革命』について

【Factに迫る!】『PBR革命』について
目次

【Factに迫る!】『PBR革命』について
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参考:https://www.jga.gr.jp/policy.html

日本では昨年、東京証券取引所において「プライム」「「スタンダード」「グロース」に区分する株式市場の改革を実施しました。しかし、株式市場は低迷が続いており、今年度、東証はさらに「プライム」「スタンダード」市場における「PBR1倍割れ」の企業に対して、改善要請を発しています。

①『PBR=ROE×PER』

PBRは「株価÷一株当たりの純資産」で表されます。
この数値が1倍割れということは、ざくっと言うと理論上、企業が解散したほうが株主に資産が残ることを示しています。

(図1)著者作図
引用:内閣官房 人的資本可視化指針 非財務情報可視化研究会
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf

しかし、PBR1倍割れ企業の解散は現実的ではありません。

一方、PBRはPBR=ROE×PERという形で分解できます。
ROE(当期純利益÷自己資本)、PER(株価÷一株当たり純利益)

東証のPBR改善要請に対して、このROEとPERの改善がヒントになるかもしれません。
2014年「伊藤レポート1.0」では、日本の企業に対してROE 8%以上を目標とすべきとしていました。
そして、昨年の「人材版伊藤レポート2.0」では人的資本の重要性を強調しています。
これに続く、人的資本可視化指針で、人的投資・経営戦略・資本効率・企業価値のつながりを示しています。(図1、参照:既寄稿『KPI経営』(2022.12.1))

〇人的資本への投資は、中長期の観点から、経営戦略・施策の推進を支える基盤として、財務指標の改善、資本効率(ROIC、ROE)の向上、ひいては企業価値の向上をもたらすドライバーとなりえます。

〇企業経営者は自社の人的資本への投資と関連する経営戦略・施策、そして財務指標や資本効率(ROIC、ROE)の向上につながる一連の相互関連性を分かりやすく示し、投資家の理解を得ていくことができれば、企業の成長期待(PER)につながります。

前述の式からROEとPERの向上はPBRの向上になることを示しています。
「PBR1倍割れ」の解決方法の一つとして、この人的資本への投資の重要性が高まってきています。

実際、「人への投資」として研修投資額をはじめ、女性の管理職比率、男性育休取得率、男女間の賃金格差などの公開が、今年からの有価証券報告書で人的資本の開示義務となっています。

このような市場の動きを見れずに、内向きなままの企業は市場に淘汰されるのではないでしょうか。
「内向き志向」からの脱却が望まれています。

②『キャリア資本』

PBR、人的資本に関連して、既寄稿『サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)』(2023.3.1))
で述べたキャリア資本について再考いたします。(図2)

(図2)著者作図
引用: キャリア・ワークアウト 田中研之輔[著] 日経BP、日本経済新聞社2021年3月28日

キャリア資本はビジネス資本、社会関係資本、経済資本から成り立ちます。
そのなかで、「経済資本=ビジネス資本×社会関係資本」の関係があります。

また、最近の様々な研究で、早期の教育が将来の資本の蓄積に有効であることが示されてきています。
米国の研究で、早期の幼児教育(遊ぶ順番待ち、他人との協調など通常の基礎的な幼児教育)は子供たちの発達に有用であり、将来の犯罪の減少、将来の労働所得を押し上げること、などが分かってきました。
(出所:内閣府・こども政策の強化に関する関係府省会議 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_kyouka/dai2/siryou2.pdf

「教育は未来への投資」であることがわかります。
よって、ビジネスパーソンにおいても、早期からのリスキリング等の教育は、ビジネス資本、社会関係資本の向上により、経済資本の向上につながる可能性が高まります。
そして、キャリア資本を高めたビジネスパーソンはさらに市場価値が高まります。

この4月から、政府はジョブ型雇用の推進、自己都合退職の失業給付の緩和による労働移動の円滑化等々、労働市場の流動性を促進するための改革に舵を切ってきています。
これからのビジネスパーソンはキャリア資本を高め、スキルの可視化「魅せる化」ができるほど、市場において、価値を発揮する機会が高まってきます。
一方、これからの企業は、「キャリア資本を蓄積したビジネスパーソン」に「選ばれる会社」になり、人的資本によりPBRを向上させ、企業価値を向上していけるかが、重要な課題になってきます。

③最後に

「PBR」は医薬品企業にとっても、企業価値向上につなげるための重要なキーワードです。
医薬品・医療機器企業はこれから、PBRを鑑み、自社を「トランスフォーメーション」し、持続可能(SDGs)な国民皆保険を含めた社会保険制度維持に貢献していくべきと考えます。

2023年5月
文責:ニプロ株式会社 山口博人(日本FP協会会員AFP)

参考情報
◯『日本版ジョブ型』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230501.html
◯『Society5.0』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230403.html
◯『ウェルビーイング・マーケティング』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230301.html
◯『サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230201.html
◯『インパクト加重会計』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230105.html
◯『KPI経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221201.html
◯『価値創造経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221101.html
◯『ムーンショット経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221003.html
◯『人的資本経営(パート3)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220901.html
◯『人的資本経営(パート2)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220801.html
◯『人的資本経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220701.html
◯『ウェルビーイング経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220601.html
◯『VUCA時代経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220510.html
◯『パーパス経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220325.html
◯『ESG経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220120.html