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【Factに迫る!】『イノベーションと無形資産』について

【Factに迫る!】『イノベーションと無形資産』について
目次

【Factに迫る!】『イノベーションと無形資産』について
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前回、『非財務情報可視化』について紹介いたしました。
では、なぜ投資家は企業の非財務情報の可視化を要望するのでしょうか。
それは、この非財務情報のなかでの無形資産が、企業のイノベーションに関連しているからです。

今回、『イノベーションと無形資産』とそれに関連する『キャリアデベロップメント、市場価値』について紹介いたします。

① 『イノベーションと無形資産』

日本は、OECD(経済協力開発機構)諸国のなかでイノベーションを実現した企業の割合が高くないと云われています。その理由の一つに無形資産投資の不足が挙げられます。

 

(図1)著者作図
引用:日経ヴェリタス2023年11月4日

 

図1で示したように現代的な経済学では無形資産をソフトウェアやデータベースなどを含む「情報化資産」、研究開発などを含む「革新的資産」、そして、組織資本、人的資本などを含む「経済的競争能力」、の3つに分類しています。

日本における、これらの無形資産への投資は、特にバブル経済崩壊後、停滞していることがわかっています。特に無形資産のなかでも、人的資本投資がこの10年低迷しているとされています。

既寄稿『人的資本経営』(2022.7.1)の「人材版伊藤レポート2.0」で述べられているように政府、企業に人への投資を促し、生産性を上げることが、これからの日本においての喫緊の課題であるとしています。
生産性向上、イノベーションによる成長の源泉は国民の「創造力」です。

そして、この人的資本への投資が企業の経済的競争能力を高め、イノベーションに大きく寄与すると考えられています。

「創造的破壊」で有名な経済学者のシュンペーターがイノベーションを「新結合」と唱えました。既存のアイデアや仕組みを組み合わせ、新結合することで新しい価値を創造することです。
この新しい価値を生み出すことがイノベーションに繋がります。
また、異なるアイデアや仕組みは多様性、ダイバーシティー度が高い程、生まれやすいことが知られています。

ですので、投資家は企業のイノベーションに期待して、無形資産のなかの非財務情報である人的資本への投資や多様性ダイバーシティー&インクルージョン(D&I)に注目するのです。

② 『キャリアデベロップメント、市場価値』

図2は既寄稿『人的資本経営パート3』(2022.9.1)の「キャリアデベロップメント、賃金」で紹介した図になります。

 

(図2)著者作図
引用:日本労働研究会雑誌No.723.4-18/October 2020

 

こちらは年功賃金制度について「企業特殊的人的資本」による賃金Aと「一般的人的資本」による賃金Bについて述べました。
この図を市場価値に焦点をあてて簡易的に表すと図3になります。

 

(図3)著者作図
引用:日本労働研究会雑誌No.723.4-18/October 2020、日本経済新聞社2023年10月18日

 

一橋大学小野浩教授によれば、これまでの一つの企業での長期終身雇用でみてみると、入社時から50代までに一般的人的資本である市場価値が減衰することが見て取れます。

例えば、日本企業の一般的な社員に人的資本のストックを考えた場合、図3に示すように、入社時は一般的人的資本がすべてになります。しかし、入社後、企業内研修などによって企業特殊人的資本が蓄積します。
一方、一般的人的資本は陳腐化していきます。年齢を重なるごとに社員の社内での価値は向上しますが、外部での労働市場価値は低下します。

このメカニズムによって、中高年は組織に閉じ込められ、転職が難しくなる。結果的に長期雇用となり、人材の流動性が低下し、人的資本の適材適所が進まなくなります。
これが日本全体の労働生産性が低い理由の一つになります。

既寄稿『リスキリング(鳥の目、虫の目、魚の目)』(2023.11.1)にあるように、個々のビジネスパーソンはリスキリング、アップスキリングによって、一般的人的資本を上げることで、市場価値を考え続けることが涵養です。

このことが日本全体の労働生産性を上げ、企業のイノベーションに寄与する可能性が高くなります。

ビジネスパーソンの視点からすると、所属する企業、組織にいると市場価値をアップできると実感できること、また個々のイノベーションにつながる創造力(Creativity)アップをも鑑み、更なるエクセレントビジネスパーソンを目指し、ライフサイクルマネジメント(LCM)を勘案してみることも大切であると考えます。

このことが、既寄稿『ウェルビーイング・マーケティング』(2023.3.1)「キャリアデベロップメント、マーケティング人材」で述べたようにビジネスパーソンが自分自身のキャリアをマーケティングすることで、市場価値アップにつながる可能性が高まります。

③ 最後に

「イノベーションと無形資産」について、企業の観点からすると、自社の無形資産である「人的資本」を醸成し、多様性を確保しながらイノベーションを実現し、戦略的に人的資本経営を実践していくことが大切になります。

医薬品・医療機器企業はこれから、無形資産である「人的資本」を戦略的に活用し、イノベーションにより、自社を「トランスフォーメーション」し、持続可能(SDGs)な国民皆保険を含めた社会保険制度維持に貢献していくべきと考えます。

 

2024年1月
文責:ニプロ株式会社 山口博人(日本FP協会会員AFP)

参考情報
『非財務情報可視化』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/240109.html
『2023年ノーベル経済学賞、ノーベル生理学・医学賞』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/231201.html
リスキリング(鳥の目、虫の目、魚の目)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/231101.html
『三位一体の労働市場改革』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/231002.html
『女性活躍推進』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230901.html
『次世代育成支援対策』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230801.html
『AI戦略』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230703.html
◯『PBR革命』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230601.html
◯『日本版ジョブ型』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230501.html
◯『Society5.0』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230403.html
◯『ウェルビーイング・マーケティング』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230301.html
◯『サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230201.html
◯『インパクト加重会計』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/230105.html
◯『KPI経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221201.html
◯『価値創造経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221101.html
◯『ムーンショット経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/221003.html
◯『人的資本経営(パート3)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220901.html
◯『人的資本経営(パート2)』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220801.html
◯『人的資本経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220701.html
◯『ウェルビーイング経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220601.html
◯『VUCA時代経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220510.html
◯『パーパス経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220325.html
◯『ESG経営』について:日本ジェネリック製薬協会 JGApedia
https://www.jga.gr.jp/jgapedia/ge/220120.html